トランプ氏、FED私物化発言の波紋
10日の米ニューヨーク(NY)市場オープン前に米CNBCで放映されたトランプ大統領の電話生インタビューがウォール街で波紋を広げている。朝の経済番組に生出演していた米国商工会議所幹部の発言に反論するため、自らテレビ局に電話をかけたという異例の展開だった。
特に、エスカレートするFED(連邦準備制度)への「口撃」に市場はあきれ顔だ。
経済への悪影響という点で、関税よりFEDの金融政策を重く見ている。
筆者も聞いていて、「そこまで言うか」との印象を受けた。
中国人民銀行とFEDを比較して、「習近平氏は、いわばFEDのトップで好きなようにできる。米国は中国と同じ土俵で戦えない」「FEDにいる人物たちはnot my people=私の側の人物たちではない」「FEDは、利下げせず、量的引き締めを行い、破壊的だ」
電話で早口でまくしたてるので、このような刺激的発言が頻繁に混じる。
中央銀行の政治的独立への配慮どころか、子飼いの人物が居ないことを嘆くほどFEDを自陣の組織と見なしている。
折から外為市場では、人民元の先物レートが対ドルで下落して6.99元と「レッドライン=危機ライン」とされる7元の大台に接近中だ。
「中国は人民元を安くして国際競争力を強めてきた」というおなじみの発言にも切迫感がみなぎる。
いっぽうNY市場では、ついに「年内4回利下げ」の織り込みが始まった。来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で議論を尽くし、7月、9月、10月、12月と連続利下げに踏み切るとの見立てだ。さすがに、市場が先走り気味の様相である。
今月末に大阪で開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で米中トップ会談が実現すれば、市場の警戒感も和らぎ、一気に利下げ確率も急減する可能性を秘める。
株式市場は、米中歩み寄りを願いつつも、それにより利下げ回数予測が減れば、緩和期待が薄れ、売り材料となるシナリオを警戒する。
債券・外為市場では、ドル金利が反騰して、ドル安・円高も一服状態である。
金利を生まない金の市場では、利下げ3回程度まで織り込まれたところで、利下げ期待の買いポジションが、早々と手じまわれた。1350ドル接近から1320ドル台まで急落中である。
米中通商摩擦の先行きが視界不良ゆえ、どの市場でも、利益確定売りが想定より早まる傾向が顕在化してきた。
「深追いはしない」「いただけるものは、とりあえず、いただく」との雰囲気が市場内に漂う。
いっぽう、長期投資家は、トランプ発言が誘発する不安感を強めつつも、バフェット氏の冷静な過去の名言集にすがる思いで市場の展開を見守っている。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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