「株安はピーナツ」トランプ氏、日本に余波
トランプ米大統領が「米中交渉に期限はない」「大統領選挙後まで待つこともありうる」と発言し、日米の株価が揺れている。
市場参加者の関心は、15日に予定する対中追加関税「第4弾」の発動を強行する否かだ。トランプ氏にとって「関税カード」は大統領選に使える「武器」であり、ちらつかせつつできる限り温存したいところだろう。中国側が米国産の農産物輸入と知的財産権保護に関する実効性ある措置を約束すれば、その「見返り」として追加関税撤回を考慮するという姿勢だ。
一方、中国側は米国が追加関税を撤回すれば、米国の農産物の輸入も知財保護も一定のコミットを与えるとのスタンスで、両国はなかなか折り合わない。
追加関税「第4弾」はスマートフォン、パソコン、玩具など消費財中心に計1600億ドル分に15%の関税を上乗せするので、米国の消費者にも「痛み」が及ぶ。それゆえ、株価への影響は必至だ。
マーケットでは、先週まで感触として8割方は「延期または撤回」という楽観論が支配的だった。最終的に米中は「共倒れ」を回避するとの読みだ。だが、今週に入ると雲行きがにわかに怪しくなってきた。今や、五分五分というところだろう。
最高値圏にある米国株式相場が背景にある。株価上昇を自画自賛すると思われたトランプ大統領だが、あえて株高を誇らしげに語ることはなかった。3日に米国株が急落している場面では「この程度の下げはピーナツ(=大したことない)」と指摘し、状況を容認した。
そこには、相場変動の主導権を握るトランプ氏の株価操縦術がにじむ。先週のようなペースで株価が上昇すれば、大統領選で重要な予備選が重なる3月のスーパーチューズデーの頃には株価が自律的に反落するリスクがある。現時点ではあえて相場を冷やすこともいとわず、3月まで上手に高値圏を維持したい、との思惑が透ける。
そうなると今月15日に15%程度の追加関税を発動した場合、株価は悪影響を受けても高値圏にはとどまる、とも読める。3日のニューヨーク市場で、ダウ工業株30種平均はトランプ発言を受けて一時、前日比470ドル安まで沈んだが結局、終値は280ドル安まで戻した。下がっても安値では買いが入り、高値圏は維持している。
仮に関税率を30%程度に引き上げれば、上げ相場も崩れるだろう。最終的な決断は気まぐれなトランプ氏の胸一つだ。今や、米ホワイトハウスに「殿ご乱心」といさめる人物はいない。3日にはロス米商務長官がテレビに生出演し、ひたすら「大統領の意向」を繰り返すのみだった。
日本へのリスクも気になるところだ。米中協議は長期化の様相が濃くなり、米国はさらに欧州連合(EU)とも一戦を交えたあとに日本を標的にする可能性はある。日米通商協議「第2段階」は先送りされているのだ。いくら「シンゾーはグッドフレンド」と言っても、こと大統領選に関わることならば「話は別で、譲れない」と威嚇しても不思議はない。それが「トランプ流」だ。
弾劾問題ではトランプ氏も相当、いら立っている。支持率が下がるような局面があると、気性の激しい大統領ゆえ、何を言い出すか分からないリスクがある。このところ日本時間の早朝から午前にかけて飛び出すトランプ氏の発言が、取引材料になることが目立つ。日本のマーケットも常に身構えざるを得まい。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
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・業務窓口はitsuo.toshima@toshimajibu.org