債券市場の怪、12月相場騒乱の予感
昨年12月に米連邦準備理事会(FRB)は年4回目の利上げを強行。相場は年末年始にかけ大荒れとなった。その苦い記憶がいまだに残るが、今年は金融緩和政策、世界景況底入れの兆しを背景に世界的株高が進行したことで楽観視されてきた。そして迎えた12月相場初日。中国、欧州のPMI(購買担当者景気指数)も好転したことでニューヨーク(NY)ダウ工業株30種平均は寄り付きで前日比50ドル超上昇。まずますの船出と思えた。しかし安堵感は1時間も続かず。11月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は48.1と悪化。ダウ平均はただちに前日比200ドル以上急落。事前予測では50前後の水準が期待されていた。
さらに、トランプ大統領が、米国製造業の救済を明示してブラジルとアルゼンチンからの鉄鋼・アルミニウムの追加関税発動に動いた。両国の「自国通貨安操作」をやり玉に挙げているが、アルゼンチンは経済危機で通貨防衛に追われる国だ。大統領選挙をにらみ、貿易戦争最大の武器「関税」を使いまくる「無茶ぶり」の様相である。
そもそもブラジルもアルゼンチンも「為替監視国」に指定されていない。これは「為替監視国」に指定されている日本にとっても無視できない状況だ。2020年大統領選挙選でトランプ氏が追い込まれる状況になれば、日本に対して為替条項を蒸し返してくる可能性もちらつく。
さらに、ウオール街で「債券市場の怪」と話題になる現象も生じた。株安、ドル安なのに米国10年債利回りが1.79%から1.81%へ上昇したのだ。米国債増発による債券需給の悪化、さらに、低金利環境での社債発行ラッシュによる民間債務膨張のリスクが意識されている。ときあたかもNYレポ(短期金融)市場では資金不足による短期金利上昇圧力がかかりNY連銀は年末に向け経常的に緊急流動性供給オペを実行中だ。債券市場が発する異音は、市場の注目が金融政策から財政政策へ移行する兆しとも読める。
米中通商問題もいよいよ12月15日に消費財中心の対中追加関税発動期限を迎える。市場ではおおかた発動延期あるいは撤回を織り込みつつあった。米中両サイドも最終的には「共倒れ」を回避するとの読みであった。
しかし、再び「タリフマン(関税の男)」の面をあらわにするトランプ大統領の言動に市場の楽観論も揺らいでいる。
最新のツイートでは、ISM指数悪化が映す米国製造業窮状の責任をFRBに転嫁。パウエル議長の不十分な利下げ政策がドル高を招いたと批判をエスカレートさせている。
市場では、12月10~11日に今年最後の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、FRBは当面再利下げに動かずとの予測が大半だ。注目は恒例のパウエル議長記者会見。前回は「利上げの必要性が当面無し」との表現で緩和姿勢継続を明示した。今回、経済指標悪化を受け「利下げの可能性」を明示すれば、トランプ大統領の圧力に屈したとの謗(そし)りを受けるやもしれぬ。しかし、株式市場は緩和なら大歓迎である。対して、債券市場では金利乱高下のリスクが無視できない。そこで、債券市場の乱が株安を誘発するシナリオも考えられる。外為市場では円高リスクが再び意識されよう。
今年は平穏かと思われた12月相場だが、まだ予断できなくなってきた。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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