有力部族の仲介カギ 身代金要求、各国で対応に差
【アンマン=押野真也】中東の過激派「イスラム国」とみられる組織が日本人2人を拘束し、身代金の支払いを要求した期限が23日に迫った。人質解放に向けてはイラクとシリアの有力部族の仲介がカギを握るとの見方が浮上しているが、日本政府は事態打開につながる糸口をつかめていないもようだ。自国民が過激派などに誘拐された際の対応は各国で異なる。水面下で接触を試みる作業が続きそうだ。
20日に公開された映像では、イスラム国のメンバーとみられる男は「72時間以内」の身代金の支払いを要求した。日本政府は23日午後を期限と認識している。現地対策本部を置く在ヨルダン日本大使館に出入りする関係者の表情は一様に硬い。
日本政府は人質の安全確保を理由に解放に向けた取り組みの詳細を明らかにしていない。シリアやイラクの治安問題に詳しい、ヨルダンのある閣僚経験者は「イスラム国と密接な関係にある(イスラム教)スンニ派部族の仲介が重要だ」と指摘する。
イスラム国が国家樹立を宣言して以降、シリアやイラクの部族の一部はイスラム国に合流。支配地域の住民をとりまとめる上でも、部族の長はイスラム国に対して一定の影響力を持つとされる。昨年9月、イスラム国が拉致したトルコ人の人質49人を解放した際もこうした部族の仲介があったとみられている。
シリアでは内戦の激化を受け、日本を含めて多くの国が自国民を周辺国に退避させている。外交官が個人的にこうした部族とパイプを築くことは難しく、ヨルダンやレバノン、トルコなど周辺国の協力が不可欠だ。中山泰秀外務副大臣が21日にヨルダンのアブドラ国王と会談して協力要請した背景にも、周辺国との協調が欠かせないとの認識がある。
ただ、一般的に部族の交渉仲介には「見返り」が発生する。部族を経由して過激派組織に恩恵が生じることもある。交渉に応じれば新たな誘拐を誘発させかねないとして米英は表向きは「テロリストと交渉はしない」との立場を取る。交渉ではなく、自国軍を派遣して救出作戦を展開することもある。
米国では、テロ組織などに認定した組織への身代金の支払いを法律で禁じ、訴追の対象としている。昨年8月、米国人ジャーナリストのジェームズ・フォーリー氏が斬首されて殺害された事件では、同氏家族は米メディアに「身代金を支払わないよう、国務省の職員から脅された」と述べ、大きな議論を呼んだ。
2013年6月の主要8カ国(G8)首脳会議では「身代金拒否の原則」が確認された。しかし、ヨルダンの元閣僚は「(13年のG8以降も)イスラム国に対し、身代金を払った国があると(政府内で)聞いた」と話す。一般的に、フランスなどの欧州諸国は表向きは否定するものの、身代金を支払ったとの見方もある。