女優が着る服、ポチって購入! テレビドラマも売り場に
先読みウェブワールド 野呂エイシロウ氏
筆者は放送作家で、以前からテレビ局に「ドラマで放映中のものがすぐに買えたらいいのに」「ワイドショーで紹介したものがすぐに欲しい」と提案してきた。だがいろいろな制約があって実現できずにいた。
そんな中、テレビで紹介された品を番組を見ながら買えるようにしたIT(情報技術)企業が現れた。サービス名をそのまま社名にした、これポチ(東京・新宿)である。
「私自身、ドラマを見るのが大好きで、主人公が着ている洋服が『かわいい、欲しい』と思っていた」と振り返るのは中山由衣社長。欲しいと思った瞬間にすぐにスマートフォンで買い物できる仕組みがあればと思い、サービスを2年前に立ち上げた。
これまで1500人のインフルエンサーを活用したマーケティングや調査を通じ、女性がどんな商品をどういう状況で購入したいかなどを追求してきた。手掛けた主要商品のかき氷は、イベント出店のみで年間15万食を販売した実績がある。
「これポチ」の使い方は至って簡単。専用アプリに登録すると、あとはドラマを見ながら買い物をするだけ。逆に、アプリで紹介されている商品が何時何分ごろに番組に登場するかまで分かる。つまり、役者が着る洋服を事前に知ることができるのだ。
東京MXテレビのバラエティー番組「東京電波女子」で、人気インフルエンサーに衣装やアクセサリーを着けてもらって昨年10~12月に放送すると、千円台のアクセサリーや2万円台のシューズが売れたという。
会社の立ち上げにあたり、株式投資型クラウドファンディング「ファンディーノ」を通じて3290万円を調達した。新興企業には通常、機関投資家の出資が多いが、200人以上の一般株主がいるのが実に面白い。
「創業融資などが受けづらく、コンテンツ力や将来性を評価してもらえる仕組みを活用した」と中山社長。フジテレビの月9や日本テレビのメジャーなドラマとはまだ連携できていないが、今後の成長次第では民放各局で使われるかもしれない。
テレビ局やドラマ制作者からも、「欲しい物が探さずにすぐに手に入ることは視聴者にとって良いサービスだと、前向きな反響がある」と中山社長は手応えを感じている。新たなマネタイズ手法の開拓やリアルタイム視聴率の回復などにも期待があるという。
とはいえ難しいこともたくさんある。女優や俳優が着る服をネットで販売するとなると、出演者料の他に、モデル費用や広告宣伝費が芸能事務所などから請求される可能性もある。販売が前提となると、調整事項が増え演出も左右される可能性がある。
「ドラマや出演者とコラボレーションした商品の開発や、番組内限定でリアルタイムでしか買えない商品などを販売したい」と、テレビとの関係を更に深めたい考えだ。
放送局も動画配信サイト「TVer(ティーバー)」を通じて、ネット同時配信の実験を1月に始めた。今後ますますテレビ番組はスマホと連携を深めていく。当然このようなサービスにも本気になるだろう。楽しみだ。
[日経MJ2020年2月3日付]
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