幸福な長寿社会のヒント
SmartTimes 久米繊維工業相談役 久米信行氏
気がつけば日本は世界一の超高齢社会になっていた。危機を好機に変えようと「第2回ウエルエイジングソサエティ―サミット・アジアージャパン」が東京で開かれた。経済産業省の主催で、各国の大臣からベンチャー経営者まで政官産学金の論客が揃い、2日間で約400人が参加した。
日本は再生医療のリーダーを目指し、技術と制度の両面でトップを走ろうとしている。医療のビッグデータとIoTを結び付けた新サービスも生まれよう。
しかし、残念ながら健康長寿のからだづくり(ハード)の話題が多く、幸福な暮らしづくり(ソフト)の探求はもの足りなかった。社会参加の重要性を多くの論者が口にした。より具体的に、どんな社会参加が幸せかを考えることこそが、ウエルエイジング社会創造と新ビジネス起業のカギだろう。そのためには、幸せに暮らしているシニア層と対話し、自ら同じ体験を重ねて共感すべきだ。
私の周囲には70歳を過ぎても元気で幸せなシニアが多い。私は若くして地元墨田区の商工会議所や観光協会などの役員を拝命し、驚いたのは、若者よりも元気で笑顔いっぱいの先輩経営者が多いことだった。
定年がなく生涯現役で活躍できることも一因だろう。だが、本業でも忙しいのに、複数の地域団体で社会貢献をしている人ほど元気なことに気づいた。
そこで思い出したのは、情報化社会という言葉を作った未来学者で95歳まで活躍した林雄二郎先生の卓見だ。誰もが当たり前だと思っている定年制と年金制度に異を唱え、60歳から就ける仕事を用意する「逆定年制」を提唱したのだ。
下町では商工団体に限らず町会長から氏子総代まで、今までの功績が認められた年配者しか役職者になれない。まさに逆定年制だ。収入を得るより持ち出しだが生きがいを感じ、尊敬を集めて自己肯定感が得られる。だから元気なのだ。
さらに先輩方を元気にしたのがSNSだ。墨田区では、キーパーソンの多くがフェイスブックのヘビーユーザーだ。例えば東京東信用金庫会長の澁谷哲一さんは早朝の散歩から、人形焼山田家の山田昇さんは錦糸町駅での夜警まで、一日中発信している。そして地元仲間の投稿に「いいね」をし合って楽しんでいる。
濃厚な近所づきあいが失われつつある下町でもSNSが世代を超え、世間とつながる強力なコミュニティーツールになっている。
政策担当者や商品・サービス企画者は、元気なシニアが輝いて見えるNPO活動や文化芸術の現場に出向くべきだ。そして一緒に泣き笑いしながらSNSで心の交流をした方がいい。
前述の林先生が92歳の時に「これから何をしたいですか」と質問したことがある。答えは「色々ありすぎて言えないよ」だった。健康の秘訣を聞くと一言「道楽」だと教えてくれた。
[日経産業新聞2019年12月16日付]
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