「すみだモダン」新たな販路
SmartTimes 久米繊維工業相談役 久米信行氏
日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念し、ヘルシンキ郊外のエスポー文化センターで小さな展覧会を開いた。海外で人気の高い北斎の浮世絵と、北斎生地の墨田区で現代のデザイナーや職人、町工場が創作した日用品を並べて展示する初の試みだ。
予算や展示空間、人員が限られていたので私自身が展示品の買い付けから運搬、飾り付けまで担った。会場での説明も担当し、現地での反響も体感できた。
この体験から、日本が誇るアートと美しいデザイン商品を同時に展示して販売する事業に可能性を感じた。ICTも活用すれば観客(購買客)、美術館、運営者、メーカーの「四方よし」を実現できるだろう。
今回は文化交流事業でテストケースのため商品は販売しなかった。デザイン大国フィンランドで日本のデザインが受け入れられるか不安もあったが、観客の多くが購入を希望された。
通常、展覧会は美術鑑賞が主で、販売はあくまでも従だ。ミュージアムショップで販売されるのも、絵柄がついたお土産品だ。
しかし今回の展覧会では、著名な北斎の作品を壁に飾りつつ、その手元の棚には美しい江戸切子ガラスなどを並べた。地域ブランド「すみだモダン」認証の商品が中心だ。来場者に「北斎の郷里で、北斎漫画に登場するような職人が今でも手作りを続けている」と話すと喜ばれた。展示品は見るだけでなく、手に取って触れてもらえるようにした。「良い品は美しいだけではなく手触りや香りも心地よい」と好評だった。
これだけ海外に買いたい人がいると知れば、展示品をサンプルとして無償提供したいメーカーも多いだろう。そうすれば低コストで展覧会を企画できる。
通常、海外に販路を広げるにはプロのバイヤーが集まる展示会に出展することが多い。交渉が成立しても、在庫や返品のリスクを抱えながら低マージンの商売を強いられがちだ。だからこそ、日本の美意識を愛する個人に直接販売できる道が開けたらうれしい。同じ空間で日本製のデザイン商品を「見て触れて買える」展覧会を開けば、美術館や運営団体も、今まで以上の販売収益を期待できる。
展示品を欲しくなった人には、チケットと連動したスマートフォンアプリを活用してほしい。展示品のラベルにスマホをかざし、その場で予約ができる仕組みだ。予約分は定期的に集計し、まとめて日本から会場に送る。受注生産でも良いだろう。取りに来た人は、美術館にリピート入場できる仕組みにすれば喜ばれるだろう。これなら小さなメーカーでも対応できる。
来春には墨田区にICTと英語を武器に起業家を育てる専門職大学が開学予定だ。学生たちと「北斎とすみだモダン展」を核に、地元製品を世界に販売するビジネスモデルとシステムを構築しようと決意した。
[日経産業新聞2019年11月8日付]
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