芭蕉ゆかりの古刹 訪日客も 山寺(山形市)
おもてなし 魅せどころ
松尾芭蕉が奥の細道で訪れた山寺(立石寺)は年間70万人が訪れる山形市を代表する観光地だ。慈覚大師円仁が860年に創建したとされる古刹で、仙台からJRで1時間あまりという地の利の良さもあり、近年はインバウンド(訪日外国人)も増えている。裏道にあたる「峯の浦」を歩く人が増えるなど、その歴史が改めて注目されるなか、街の魅力を高めようとする動きも始まった。
「ユーチューブで知った素晴らしい眺望を実際に見たいと思った」。米国から夫婦で訪れたベン・オニールさん(34)は札幌から東京へ移動する途中、仙台から山寺に立ち寄った。日本は6回目というが山形は初めてで「こんな場所があったとは」と驚いていた。
他地域に比べ訪日客が少ない東北だが、近年は増加している。山寺観光協会会長を務める立石寺の清原正田貫主は「観光客の3割程度は外国人。特別な案内はしていないが、異文化に注目してもらいありがたい」と話す。
山寺は岩山の間をぬうような階段を上り、奥の院を目指すのが一般的なルートだが、これまでほとんど知られていなかった峯の浦も一部で注目を集める。かつては修行の場だったいい、1時間半ほどかかる本格的な山道だが、瞑想(めいそう)にふける外国人の姿もみられるという。
そんな山寺が2018年「山寺が支えた紅花文化」で日本遺産に認定された。これを期に地元で新たな魅力の発信に向けた話し合いを始めている。土産物店などを経営し、観光協会商工事務部長を務める遠藤物産の遠藤正明社長は「外国人は歴史をじっくり体験する。あるべき観光の姿を再認識させられた」と語る。
峯の浦は気軽に訪れるにはハードな道だが「熊野古道のような魅力がある。PRをやり過ぎてもいけないが、山寺と合わせて丸1日滞在できるようになる」と注目する。これまで個人で活動していた外国人ガイドを、日本人のガイド組織に入ってもらうよう受け入れ体制を整備。歩いて楽しめる街づくりを議論する。
遠藤さんは昨年、雑貨店を開いた。着物をリメークした手作りの小物が外国人に人気というが、接客にあたるのは母親のゑい子さん(81)。「片言の英語でも全く問題はない。この年で毎日楽しく店に立てる」と喜ぶ。インバウンドは地元の人の気持ちも一新させているようだ。
(山形支局長 浅山章)
[日経MJ 観光・インバウンド面 2019年11月4日付]