春秋
取材で訪れたフィリピンのマニラでアティエンザ・デレックさん(31)という元技能実習生の男性に会った。2011年から14年にかけて3年間、三重県の自動車部品工場で働き、月に20万~25万円を稼いだという。いまは蓄えを元手に、生徒数35人の日本語塾を営む。
▼日比のかけはしの仕事をするデレックさんだが、日本では悲しい思いもした。祖父が亡くなったとき、受け入れ企業から「帰っちゃダメだと言われたこと」だ。賃金不払いなどもなく、実習先は特に問題企業というわけではなかったが、外国人は目いっぱい働かせたいと思っていたのだろう。彼の心にはいまも傷痕が残る。
▼フィリピンの若者の話を聞いて感じるのは家族を思う気持ちの強さだ。「父には決まった仕事がなく、僕が日本で働いて両親を助けたい」(高1男子、15)。「日本に行って大学生の弟の学費や一家の生活費を稼ぎたい」(看護師の女性、28)。この国は人口の約1割が海外へ出て活動している。支えは家族愛なのだろう。
▼社会福祉士で、介護の技能や日本語を現地で教える福井淳一さん(39)は、日本企業に提案する。「フィリピンの人を受け入れるなら、期間中に1カ月くらい、家族の元に帰してあげてはどうか」。心身がリフレッシュし生産性が上がるかもしれない。外国人をお金を生む労働力とみている限り、なかなか踏み切れまいが。