革新を束ねる「CINO」
新風シリコンバレー ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社長 ロッシェル・カップ氏
成功している企業は業務の効率と利益性を高めることに焦点を当てている。それはもちろん大切なことなのだが、そればかりするのでは、大きなイノベーションは生まれにくい。
各部門長が毎日のオペレーションを順調に進めることだけを意識してしまうと、多くの実験や試みをなかなかできずに終わってしまう。会社でイノベーションの活動をしようとする際、それをまとめる人がいないと、せっかくのアイデアや行動が成果につながりにくいという問題もある。
この問題の対策として、いま米国で人気が高いのはChief Innovation Officer(CINO)を指名することだ。シリコンバレー以外の企業でありながら、シリコンバレーの企業並みのイノベーションを出したい会社や組織の間で人気が高い。
この肩書はChiefで始まるので、CIO(最高情報責任者)やCFO(最高財務責任者)のように、社長直属のポストである。会社にとってイノベーションはどれほど大切なのかを示す象徴的な効果もある。
しかし、そのポストに人を置くだけではなく、その人が何をするかが大事である。効果を出すために、CINOの従事すべき活動として、以下のようなものが挙げられる。
第1はアイデアを集めることだ。従業員は仕事をしながら、様々なことに気づき、様々なアイデアを得る。しかしそれを積極的に集めないと、世に知られないまま忘れられてしまう。
そのためアイデアを持っている従業員が改善提案や新商品のアイデアを提出できる社内プロセスを設定する。提出されたものの全ては評価の対象であり、その中でもっとも可能性のあると思われるものをさらに調査するといったようなアイデア収集プロセスを設定する。
第2は社会とのつながりを作ることだ。良いアイデアは社内だけではなく、社外からも来るかもしれない。そのため大学やベンチャー企業、個人の発明者とのつながりを作ることによって、最新のテクノロジーとビジネスモデルを入手して、それをイノベーションにいかすことができる。
第3は見分けだ。社内外のアイデアを評価して、どれが最も大きな可能性を持っているかを判断し、それに予算を与えて開発に導く。CINOの立場はそんな判断をするにはふさわしいと言える。
第4は社内調整だ。良いと思われるものは成功するように、社内からのサポートを得られるように、CINOが対応する。インキューベートした新商品に勢いがついた場合、今後の運営のために事業部にうまく引き渡す必要もある。
こういった活動をしながら、CINOは社長と密接に連携をして、伸ばそうとしているイノベーションが会社の戦略と本当に一致しているのかどうか常に確認する。こういった意味で、ほかの幹部は会社の現在に日々対応しながら、会社の将来も見据えることができる。とても価値のあるコンセプトなので、米国では現在、CINOの数が急増中である。
[日経産業新聞2019年8月20日付]