米下院で気候リスク開示法案 環境政策、一転の可能性
Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏
気候変動対策に背を向ける米国の姿勢は、依然、かたくなに見える。20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の首脳宣言でも、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」署名国のコミットメントを再確認する文章と共に「自国の労働者や納税者に不利になるため米国がパリ協定から脱退するとの決定を再確認する」との文章が併記される異例の事態となった。
ただ、時計の針が止まっているわけではない。米下院の金融サービス委員会で16日、2019年気候リスク情報開示法案が可決(賛成34・反対25)された。
この法案は上場企業がアニュアルリポートにおいて、気候変動に関連する事業上・財務上のリスク情報を開示することを要請。同時に、証券取引委員会が他の連邦組織と協議し、産業別の気候変動関連リスク情報開示の指標と手引きを作成して、企業に定性・定量の両面での情報開示を要求することも定めている。
もっとも、同委員会は民主党議員が過半を占める。上院での否決や大統領の拒否権で最終的な法案成立の見込みはないと言われる。しかし、注目すべきは、同委員会がほかにも株主保護や企業の納税額開示など異なる4つの法案(いずれも民主党議員提案)を前提に公聴会を開催。気候リスク情報開示法案だけを委員会採決にかけ、下院全体の採決に送った事実だ。
同法案は、エリザベス・ウォーレン、マイケル・ベネット、カーマラ・ハリスなど次期大統領選の民主党候補に名乗りを上げる多くの議員が明確な支持を表明している。下院全体で、共和党議員からの賛成が一票でも出れば、大統領選でトランプ大統領を追い詰める材料になりうる。
実際、米国で相次ぐ大規模な山火事が「気候変動は、現実に人々の生命や財産権の脅威となっている」という認識を圧倒的に高めているとする観測や、米軍や国防総省に「気候変動が地政学リスクの原因になり、米国の安全保障上の脅威を高めている」とする確信が広がっているとする報道もある。複数の地区連邦準備銀行トップからも、気候変動を懸念する発言がこのところ相次いでいる。
大統領選で不利に働くと判断すれば、トランプ大統領が環境政策を一転する可能性もある。また仮に民主党候補が勝利すれば米国も一気に欧州並みの規制にかじを切り得る。日本もこうしたシナリオのもとで政策代替案を立案しておく必要があろう。気候リスク情報開示法案の下院全体での採決の行方が注目される。
[日経産業新聞2019年7月26日付]
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