「脱化石燃料」に揺り戻し カナダや豪、慎重派に勢い
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化石燃料への依存を減らし、温暖化ガス排出削減を加速する目的で結成された国際組織「脱石炭火力国家連合」(PPCA)が順調に拡大し、参加企業も増えた。しかし、設立を主導したカナダでは脱炭素化に慎重な勢力が巻き返しに出ている。オーストラリアでも温暖化対策に消極的な陣営が総選挙で勝利するなど、揺り戻しが起きている。
PPCAは温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の目標達成へ向け、2017年にカナダと英国政府の呼びかけで発足した。設立時は27カ国・自治体が参加していたが、今では50以上の国や自治体と30近い企業・組織に広がった。
当時、カナダのマッケナ環境・気候変動相は「雇用不安を抱える炭鉱労働者らと膝詰めで話し合う」と語り、支援策を充実させて化石燃料依存からの脱却を急ぐ考えを示していた。しかし、事はそう簡単には運ばないようだ。
今年4月、石油産業が力を持つアルバータ州議会選挙で環境政策に異を唱える中道右派の連合保守党が予想に反し圧勝した。ケニー党首は温暖化ガスに価格付けするカーボン・プライシングに反対し、炭素税導入を進めるトルドー首相と対立している。温暖化政策が後退する可能性がある。
欧州連合(EU)の温暖化対策を引っ張ってきたドイツも、PPCAへの参加を見送ったままだ。太陽光や風力など再生可能エネルギーの利用を大きく増やしているが、出力変動に備えたバックアップ電源として石炭火力を使っている。
1キロワット時の電力量を得るために排出される二酸化炭素(CO2)量は、EU平均の1.5倍近くに達するとの分析もある。メルケル首相は国内の支持基盤が脆弱化しており、脱石炭で無理な約束をすればますます求心力を失いかねない。
豪州でも、脱炭素化の流れを鈍らせる事態が起きている。5月の総選挙で、大方の予想に反してモリソン首相が率いる保守連合が勝利した。「奇跡」とも言われる勝利の裏には気候問題があったとされる。野党・労働党は温暖化対策を重視するが、コスト負担は成長の足かせになるとの不安が票の伸び悩みにつながったという。
豪州は記録的な暑さの夏を経験し温暖化問題への関心が高まっていただけに、選挙結果は衝撃をもって受け止められた。日本政府は6月下旬の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で「温暖化対策と成長の両立」を掲げ、リーダーシップを発揮したい意向だ。慎重派を説得できる具体的な実践例を示す必要がある。
(編集委員 安藤淳)
[日経産業新聞2019年6月14日付]
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