「熱中小学校」地方に新風
SmartTimes 久米繊維工業相談役 久米信行氏
7歳の目で世界を見よう、と言われたら、あなたはワクワクするだろうか。
全国各地の廃校が大人のアクティブラーニング拠点「熱中小学校」として次々に生まれ変わりつつある。2015年10月に山形県高畠町で開校したことを皮切りに北は北海道、南は宮崎県、さらに米シアトルまでネットワークは拡大。現在は13校を数え、今後も増え続けようとしている。
私は幸運にも熱中小学校創立メンバーで元日本IBM常務の堀田一芙氏の講演を開校直前に聴くことができた。その感動を当日フェイスブックでシェアしたところ即座に堀田氏からコメントが入り、教員としてスカウトされて驚いた。この3年で8校で講師を務め、今年も4校での出講が決まっている。東京分校の開校にも関わり、用務員も拝命している。この体験を通じ、私のライフワークである地方創生にかける思いや方法論は大きく変わった。
何より私が心打たれたのは少子高齢化が進む過疎地にこそ、地域愛と向学心に燃える熱い大人が多いということだ。都会に住む人よりも新しい情報や知識を渇望しているのだろう。郷里が衰退する危機感が背中を押すのかもしれない。
熱中小学校に集う生徒は多彩だ。年齢や性別、職業を問わず「意識高い系」の大人が集う。首長や議員、自治体の役職員から農工商団体や地元企業の要人、地銀・信金の役職員もいる。そこに勉強熱心な主婦や都会から移り住んだ若者も加わる。普通なら席を並べることのない老若男女が学び、夢を語り合うのだ。
私が理事を務める墨田区観光協会でも地元の各界キーパーソンが理事会に結集し、新規プロジェクト創出につながった。しかし熱中小学校に集まった顔ぶれの多彩さにはかなわない。
熱中小学校に共感して集まった教師の顔ぶれにも驚く。誰もが知っている大メーカーや金融機関の経営者、ベンチャー起業家など、東京の高額セミナーでも会えない豪華な教師陣だ。
交通費と宿泊費のみ支給で無報酬なのに、熱中小学校の講師を引き受けるのはなぜか。先日も東京東信用金庫会長で東京分校教頭の澁谷哲一(のりかず)氏と、とっとり琴浦熱中小学校で講師を務めた際に、熱中小学校の魅力と可能性について熱く語り合った。
熱中小学校の多くは行ったことがない場所、名前も知らない場所にある。見知らぬ土地を訪ねる楽しみに加え、驚くほど元気で熱い人たちに会える。私たちの経験談や提言に耳を傾け、行動に移してくれる。
何より楽しみなのはゲスト講師陣や熱中小学校の在校生同士の交流を通じ、新しい何かが生まれそうなことだ。今後も熱中小学校の人財育成と交流を通じて新しいコミュニティビジネスやソーシャルビジネスが創造されるだろう。廃校から始まる地方創生の新しい形に期待が膨らむのだ。
[日経産業新聞2019年4月22日付]
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