中国マネー 見る目変化
新風シリコンバレー 米NSVウルフ・キャピタルマネージングパートナー 校條浩氏
シリコンバレーの特徴は多様で優秀な人材がいることだ。その雰囲気を理解するためには当地で大きな貢献をしてきたインド系と中国系の移民を振り返るのがいいだろう。
私のオフィスの隣に大手ベンチャーキャピタル(VC)のコスラ・ベンチャーズがある。その総帥、ビノード・コスラ氏はシリコンバレーで活躍するインド系の草分けと言われている。
コスラ氏はインド工科大学(IIT)を卒業した後に米国に渡り、カーネギーメロン大学とスタンフォード大を卒業。サンマイクロシステムズを共同創業し大成功させた。その後、世界最高のVCの1つと言われるクライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズに移り、投資家でも成功。2004年にコスラ・ベンチャーズを創業した。
最近ではグーグルの最高経営責任者(CEO)のサンダー・ピチャイ氏が有名だろう。04年の入社後、ブラウザー「クローム」の開発をはじめ、同社の発展に大きく貢献した。ピチャイ氏もIITの出身。スタンフォード大とペンシルベニア大で修士号を得ている。
日本でなじみがある中国系はヤフーを創業したジェリー・ヤン氏ではないか。10歳で台湾から移住。スタンフォード大の博士課程在学中にヤフーを共同創業し、2年で上場を果たした。
最近ではもう1人、張首晟氏だ。15歳で復旦大学を卒業。ドイツの自由ベルリン大、米国のニューヨーク州立大で物理を研究し、博士号を取得。天才的な物理学者としてスタンフォード大の教授となった。将来のノーベル賞受賞候補とさえ言われてきたが、デジタル・ホライゾン・キャピタル(DHVC、中国名はダンホア・キャピタル)という総額400億円規模のVCファンドを運営する顔も持っていた。
その前途洋々の若き教授が飛び降り自殺をしてしまった。中国ファーウェイの副会長がバンクーバーで拘束された日だった。動機がはっきりせず、シリコンバレーで臆測を呼んでいる。
トランプ大統領がファーウェイを市場から締め出そうとしていることよりも、シリコンバレーのビジネスマンは中国から当地への資金の流れが気になり始めたようだ。大学教授のチャン氏が5年前にDHVCファンドを作ったことも偶然ではないように見える。ファンドの出資主体は、チョンガンクン開発グループという北京のテクノロジー振興地区の公的資金なのだ。
中国からの投資が米国からの技術流出になっているのではないか、という疑問がシリコンバレーのベンチャーコミュニティーでささやかれるようになってきた。北京などの中国の都市が持つファンドが米国のVCに出資することにより、投資先の技術情報が中国に流れているとの臆測がある。
インド系や中国系の移民に共通してきたのは米国を母国として貢献しようとする姿勢だが、昨今中国から大きな資金を持って移ってくる人にはその姿勢に欠くことも散見される。移住者の動きからしばらく目が離せないとシリコンバレーの地元民は感じ始めている。
[日経産業新聞2019年2月5日付]