成長企業 日本流で支援を
新風シリコンバレー 米NSVウルフ・キャピタルマネージングパートナー 校條浩氏
米テスラの創業者、イーロン・マスク氏が自社株式の非公開化を目指した後に断念したニュースは記憶に新しい。確かに株式を公開していると、短期指向の機関投資家が事業に関係なく株価を動かし、経営を支える資金の手当てが不安定になりやすい。事業が急拡大している時期は資金需要が大きく、安定した資金が欲しいところだ。
そんな中、急成長するスタートアップに中東のオイルマネーが流れ込んでいる。数千億円の調達にサウジアラビアのファンドが参加しており、米国のウーバーテクノロジーズやリフトの企業価値はそれぞれ7兆円、1.5兆円を超える。テスラの株式非公開化では、サウジアラビアが8兆円規模を提供する用意があったともいわれる。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドにはサウジアラビアが450億ドルを入れている。高い株式評価額をもとにした大きな投資額で力ずくで成長企業に出資するスタイルは既存のVC業界では「秩序を乱している」と評判が悪い。一方、スタートアップの経営者には事業の拡大に専念できるメリットがあるともいえる。
肥大化したVC業界に中国マネーが加わっており、個々のスタートアップに数千億円を投資することが珍しくなくなった。大企業が運営するコーポレートベンチャーキャピタルの投資も活発で、昨年の米国での投資額は3兆円の大台に乗った。これに、通常のVCの総投資額約8兆円を加えると、優に10兆円を超える。
金あまりの中で上場する新興企業の規模は大きくなった。米ナスダック銘柄のテクノロジー企業の株価指数であるFAANG(フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、アップル、ネットフリックス、アルファベット=グーグルの親会社)がナスダック総合指数に占める割合が5月に27%を超えた。そこにウーバーなどの新規上場が加わる。投資バブルの傾向はあるが、未上場と上場を問わず新興企業が大きな価値を生み、米経済の新陳代謝に貢献していることは間違いない。
翻って日本の上場企業の価値の上昇は米国に比べて緩やかで、新興の大型銘柄も少ない。経済の発展のためには新興企業の成長が必要なのは論をまたない。新興市場のマザーズやジャスダックは上場基準のハードルを下げる努力をして上場を増やすことに成功したがそのために上場が小粒になりがちで、米国の仕組みをまねることはできない。
新興企業の多くが日本市場にしか目が向かず、成長の可能性を狭めている事情もあるだろう。新興市場は個人投資家が多く安定株主が少ないため、長期の成長に向けた資金が安定して集まりにくいとも聞く。
そんな中でも上場した新興企業には殻を破って大きな成長が期待できるところが出てくるだろう。そんな時にふんだんに資金を提供できる仕組みがないだろうか。マスク氏が考えたように、成長期に差し掛かる上場企業を一旦未上場にし、成長の道筋をつけたあとに再上場させるのも一法。日本の状況に合った投資スキームの登場を期待したい。
[日経産業新聞2018年12月4日付]