G20、廃棄物問題の転機に 日本、循環型経済 提唱を
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏
プラスチックストローが鼻にささったウミガメが2015年、中米コスタリカ沖で発見された事件をきっかけに、プラスチックによる海洋汚染問題が注目され始めた。
プラスチックは加工しやすく安価なこともあり、包装や飲料など各種容器や、電気製品、自動車の部品など様々な用途で使われている。年産量は世界で4億トン。1人当たり50キログラム以上に上る。
製品が分解されにくいのがプラスチックの長所。これが環境面では裏目に出た。生産量の15%がリサイクル、25%が焼却されているが、半分以上は埋め立てや不法投棄されており、この一部が海洋に流れ込んでいる。
海洋汚染は今に始まったことではない。しかし、漂着物をみると、中国やインドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカ、タイなど10カ国で世界全体の半分を占めており、ごみ回収制度の遅れとの関係が見えてくる。
10月、欧州連合(EU)の欧州議会は使い切りの食器、髪留め、ストローなどの10品目で、プラスチックの使用を禁止する法案を採択した。ただ、プラスチックが便利で安いことや、同様の性質とコストに基づく代替品が見当たらないことを踏まえると、禁止の効果は限定的。問題の本質を捉えているとは言い難い。使われた後の処理が問題であり、この法案でも再利用を推進している。
消費後の製品の活用はプラスチックに限った話ではなく、他の資源や原材料、製品でも共通だ。日本では古紙は80%以上が回収され、再生紙となる。電子機器から貴金属を取り出す「都市鉱山」や廃プラ、廃タイヤなどを原料やエネルギー源として使うセメント産業、原発1基分以上の発電能力を持つ都市ごみ発電など、先例は豊富だ。
しかし、経済全体でみれば再生品の活用が進んでいるとは言い難い。
第一の課題は回収システムだ。素材は形を変えて様々な製品の中に少しずつ使われることが多い。素材ごとに分離・分類し、再利用しやすい量にまとめるためのインフラが必要となる。
第二は品質。回収された素材に含まれる不純物は再生品の品質に影響する。また、安全性では問題ないレベルの有害物質であっても、肥料などで使う場合は消費者に与える安心感が問われる。
そして、第三は経済性。回収費用に加えて、廃プラ活用のための事前処理に大量のエネルギーや水が必要になる。プラスチックを廃プラから作ればエネルギー使用量は8分の1程度で済むというが、事前の処理費用を含めれば割高となる場合も少なくない。
廃プラの分別や有害物質の除去、水・エネルギー使用の効率化などの技術や回収インフラの改良でコストは引き下げ可能だが、それでも経済性の問題は残る。
ただ、廃棄物の環境面への悪影響がもたらすコストを払うとなると、ずいぶん様子は変わる。再利用、熱回収、廃棄の合理的な組み合わせが見えてくる。企業経営や産業政策で「バリューチェーン」と言うと、生産、物流から消費までを指すのが一般的だ。消費が終着駅であった直線的な経済を、廃棄コストを考慮し、素材をできる限り再利用するという循環型経済への転換が必要だろう。
海洋汚染は今年カナダで開いた主要7カ国(G7)サミットでも議論された。19年に日本が議長を務める20カ国・地域(G20)サミットでも、気候変動問題と共に重要な環境議題になりそうだ。日本は廃棄物問題を規制と経済システムの問題として捉え、ゲームチェンジを唱えてはどうだろうか。
[日経産業新聞2018年11月16日付]
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