遅咲きエース、ICタグ普及に弾み 小売りに革新起こすか
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
ユニクロなどを展開するファーストリテイリングが2018年春夏商品から全商品でICタグ添付を開始した。商品の検品から入荷、在庫管理、棚卸し、販売までを効率的に管理することが可能となる。
ICタグは電波を使うことで一度に大量の商品管理を高速処理できる利点がある。特に複数の企業間で商品が流通するサプライチェーンマネジメント分野などでは10年以上前から効果が期待されていた。だが、技術トレンドを分析しているガートナー社の08年のリポートでは重要な技術ながら、技術の注目度を表すハイプカーブではすでに幻滅期に位置づけられていた。長年期待されながらも、壁に阻まれる技術であったことがわかる。
ここにきて無人化とオムニチャネルの流れなどがICタグをもう一度時代の先頭に押し出しそうとしている。
倉庫は自動ロボットが活用され無人化が急速に進んでいる。レジの無人化も進み、自動決済のためにもICタグが必要になる。人手不足や働き方改革も棚卸しの自動化など省力化ニーズとしてICタグの普及を後押ししている。オムニチャネルは店頭在庫をリアルタイムで把握するニーズを顕在化させた。
経済産業省は25年までにコンビニエンスストアの全取扱商品にICタグを付ける「コンビニ電子タグ1000億枚計画」を推進している。この勢いで大量活用が進めば、普及を阻んでいたコストの壁は一気に崩すことも期待できる。
かつてセブン―イレブン・ジャパンがあらゆる商品にバーコードを付けたことでPOS(販売時点情報管理)が可能となり、コンビニという業態が情報武装流通業として強力な存在になったことはあまりに有名だ。
ICタグは販売時点だけでなく、あらゆる商品が今どこにあるかを把握できるようになるため、イノベーションの世界に小売り流通業を導く。
例えば生活者は自分の欲しい商品が一番近くのどこにあるかをアプリで簡単に把握できるようになるだろう。電子商取引(EC)を利用している理由のひとつに確実に注文、入手できるという要素は大きい。だが、もし10分歩いたお店の倉庫にあることが判明すれば、店舗まで買いに行く人も増えるだろう。つまり、実店舗を持つ小売業も情報力でアマゾンに対抗できる可能性があるのだ。
在庫データがリアルタイムでわかることで新たなビジネスも広がることが期待できる。例えば賞味期限が切れそうな商品がどこにあるかわかれば事前に安く買い付けるビジネスなども増え、フードロスも大幅に削減されるだろう。ユニクロの服にICタグが内蔵されれば、洗濯機が自動的に読み込んで最適なクリーニング方法を選択する洗洗濯機の開発やクリーニングサービスなど新規ビジネスも生まれる。
情報銀行で生活者のID管理が進み、ICタグで「商品のID」管理が進めば人と商品の関係は大きく再構築されることになる。まさに遅咲きのビジネスインフラのエースと言えるかもしれない。
[日経MJ2018年11月9日付]