非常時対応大国という日本 世界に誇る社会システム
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
今年の日本の夏は色々な意味で記録的だった。記録的猛暑が連日続くことで熱中症対策はもう当たり前のことになった。自然災害も非常に多く、豪雨や地震、台風が日本各地に爪痕を多数残した。
温暖化の影響で気候が変動しているという指摘もある。だが、日本とは万年単位でとらえれば災害で形作られた国土であり、日本人とは災害と共存しながら生きることを宿命づけられている民族とも言える。日本で生活する人々を対象にするならば、日常生活だけでなく、天候や災害、事故など非常時を前提にしたビジネスアイデアをテクノロジーの活用で多数生み出していく必要があると言えるだろう。
例えば今年の地震や台風で多くの地域が停電を経験した。これまでは電力と言えば電力会社に頼る必要があったが、現在は電気自動車(EV)を蓄電池として考えれば復旧までの電力として活用できる。実際、EVが停電時に役立ったという話も多かった。EVを電力需給の最適化と非常時のバックアップ電源に使う街づくり構想も加速しそうだ。
撮影用ドローンも災害時には被災状況をリアルタイムに把握するために活用することが当たり前になりつつある。
非常時の対応は行政の仕事と思う人が多いなか、スタートアップ企業のCoaido(コエイド、東京・文京)は緊急情報を市民が共有するネットワークを構築している。
同社が開発したアプリ「Coaido119」は周囲で倒れた人がいた時、救命有資格者への連絡と近くの自動体外式除細動器(AED)設置施設への一斉連絡、119番通報を同時に行うことができる。救急車の到着は全国平均8分30秒。CPR(心肺蘇生)が行われると救命率は2.5倍高まると言われる。日本では年間7万人が心停止で亡くなっているが、このアプリによって少しでも減らすことを狙っている。5200人の登録があり、うち救命有資格者が600人いる。
AEDを販売しているセコムとの提携も始まった。コエイドの玄正慎・最高経営責任者(CEO)は「ソーシャルスタートアップは課題解決の有効な手法の確立と、そのビジネスモデルを構築できるまで時間がかかる」と指摘。大企業や行政、個人が連携して「資金支援が集まりやすくなる仕組み作りが必要」と強調する。
現在では非常時に無料で開放する自動販売機も増えた。日常から使うアプリの機能の中に非常時対応を組み合わせることも大事だろう。
一方で日常の効率化と競争ばかりを求める経済活動も見直す段階に来ているのではないだろうか。在庫を極限まで減らすことがちょっとした災害には弱い仕組みになってしまうことは何度も証明されている。
助け合う部分と競争する部分を組み合わせた災害や緊急対応に強い日本型の社会システムを世界に輸出することが、これからの日本の強みのひとつになるのではないだろうか。
[日経MJ2018年10月12日付]
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