新NAFTAに盛る規制を拡散するな
米国、カナダ、メキシコが北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しで合意した。1994年に実現した北米の自由貿易圏が瓦解し世界経済を混乱に陥れるという最悪の事態は、免れた。
しかし自動車の対米輸出の数量規制や、他国の通貨安誘導を封じる為替条項が含まれており、問題の大きい内容と言わざるを得ない。こうした措置を日本や欧州にも強要するのでは困る。
米国はカナダとメキシコから輸入する自動車に制裁を科すと脅し、自国に有利な新協定(USMCA)をもぎ取った。自動車の輸入関税を撤廃する条件を修正し、米国産部材の調達を実質的に増やす規則や条項を盛り込む。
それ以上に問題なのは自動車の輸出数量規制だ。カナダとメキシコが米国に輸出する自動車に年間260万台の枠を設け、上限を超えた場合には25%の高関税を課す。国際ルールに反する管理貿易の見本と言ってもいい。
NAFTAの崩壊を回避できたことで世界の企業や市場には安心感も広がっているが、決して歓迎できる合意ではない。部材調達や対米輸出の条件を満たすため、主要国の自動車メーカーは北米戦略の見直しを迫られる。
米国は韓国やブラジルにも鉄鋼の対米輸出規制をのませている。トランプ米政権の裁量でモノの流れを管理すれば、資源の効率的な配分を阻害し、世界経済の成長を妨げる恐れがある。
新NAFTAには為替条項も盛り込むことになった。米国の要求を反映し「為替介入を含む競争的な通貨切り下げを自制する」と明記するという。
通貨安競争の回避は主要20カ国(G20)の合意事項であり、これに参加する3カ国が順守するのは当然だ。だが為替条項の導入は、他国の通貨政策や金融政策に干渉する口実を与え、市場を混乱させる要因になりかねない。
心配なのは新NAFTAの行方だけではない。トランプ政権はこの合意に味をしめ、米国との貿易協議を進める日本や欧州連合(EU)にも似たような要求を突きつける公算が大きい。
米国は管理貿易の手法をむやみに拡散すべきではない。一方的な制裁をすべて撤回し、対話を通じて建設的な貿易の促進策を探る必要がある。日欧も米国の脅しに屈せず、世界に範を示す覚悟で貿易協議に臨んでほしい。