ラグビー世界最多得点 名手カーター、日本の模範
技と経験で神鋼けん引
ラグビーの代表戦の世界最多得点記録を持つSOダン・カーターが日本で存在感を見せつけている。9月14日に来日後の初陣を飾ると、正確なキックやゲームメークで神戸製鋼をけん引。ニュージーランド(NZ)代表をワールドカップ(W杯)連覇に導いた実力は、さび付いていない。
「今すべき仕事に集中」
サントリーとのデビュー戦。序盤のゴールキックを外した。名手らしからぬミス。「数千回のキックを成功してきたけどいいスタートを切りたい重圧があった」と明かし、こう語る。「最初のキックを失敗するとダメになる選手もいるが、自分には経験がある」。言葉通り充実のプレーで、勝利の立役者になった。
失地挽回のメソッドがある。「ミスをしたら脚をぽんとたたく。今すべき仕事に集中できるように。過去にとらわれたり、未来だけを見たりしてはいけない」。2007年W杯、NZは準々決勝でフランスの気迫にパニックを起こして敗れた。「それからメンタル的なアプローチを始めた」
幾多のケガを乗り越えた36歳。9月29日の試合を急きょ欠場するなど衰えはあるだろうが、身体能力に頼るスタイルではない。ボールを捕る、放る、蹴るの基礎技術。相手を引き付けるランのコース取りに守備意識の高さ。日本人が見本にすべきものを惜しげもなく披露している。
世界最優秀選手に3度輝いた至宝を同僚は様々に表現する。児玉健太郎の言うことが振るっていた。「試合をしているのに試合をしていないよう」。その所作には武術の達人を思わせるものがある。動きは柔らかく、力みとは無縁だ。「落ち着いていて感情的にならないからそう見えるのかも」とは本人の分析。「NZ代表になった頃はナーバスだった。経験のおかげ」。努力の成果と強調する。
「人々に恩返し」
「今日も一歩でも目標に近づかないといけない」。毎朝、自分に言い聞かせる言葉だという。頂点を極めたのに、「足が地に着いているか、おごっていないか、常に確認している」とも話す。
自己研さんを怠らない謙虚な人が、現役最後の地に日本を選んだのは「自分にモチベーションを与えるため」だった。「人生の新たな章を書く前に、ラグビーで人々に恩返しをしたかった」。来年にW杯を控える日本で見せる珠玉のプレー。最高の「恩返し」になっている。
(谷口誠)