日中首脳の相互訪問へ戦略的な思考を
安倍晋三首相がロシア・ウラジオストクで中国の習近平国家主席と会談し、日中平和友好条約発効から40年に当たる10月23日を軸に訪中する方向が固まった。会談では習氏の訪日も招請した。これを機に首脳の相互往来を定例化し、新しい時代にふさわしい安定した関係をめざしてほしい。
40年前、中国の副首相だった鄧小平氏が条約の批准書交換のため来日した。日産自動車、新日本製鉄、松下電器産業の工場を訪問し、東海道新幹線にも乗った。一連の視察はその後、経済面の「改革・開放」政策を推し進める際、存分に生かされた。
条約交渉のさなかには沖縄県の尖閣諸島周辺に100隻もの中国漁船が集結し、日本側を威圧する際どい場面もあった。中国は鋭く対立していたソ連をけん制するため「覇権主義反対」を条約に盛り込むよう最後までこだわった。
政治混乱から抜け出たばかりの中国にとって、日本は世界に開かれた窓口だった。米国と同盟を組む日本との協調は、対米関係安定への布石にもなる。その後、中国は成長への道を歩み、ソ連は消滅する。冷戦を終わらせたソ連崩壊の裏には、中国とも近づいた米国の強い圧力があった。
日中条約を巡る経緯からは現在につながる問題が浮かび上がる。今、米トランプ政権は巨額の対中貿易赤字、知的財産権保護の不備などを理由に対中圧力を強める。1970年代からの米中接近で封印された摩擦が、目を見張る中国台頭と習近平政権の強気の対外政策をきっかけに顕在化している。
トランプ大統領の姿勢が読めないなか、日本はどうすべきか。長かった日中の冬の時代を思えば改善傾向は望ましい。広域経済圏構想「一帯一路」を巡る第三国でのインフラ整備協力も経済界の利益を考えながら進めるべきだ。
一方、米欧諸国に不信感が募る中国市場の閉鎖性、不合理な技術移転の強制では、連携して改善を求める知恵が要る。「中国は発展途上国である」との理屈はもはや通用しない。市場開放は中国の安定成長にも資する。
最近の日中の雰囲気の変化は、米中貿易戦争など逆境に置かれた中国側の都合が絡んでいる。中国首脳が強調する「正常な軌道」には、一過性に終わりかねない危うさが潜む。日本としては戦略的思考に立って中長期的な関係安定を探る必要がある。
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