1兆ドル企業になったアマゾンの課題は
米アマゾン・ドット・コムの株式の時価総額が今月初めに一時、1兆ドル(約110兆円)を突破した。1兆ドルの大台を超えるのは米国企業ではアップルに次いで2社目となる。
アマゾンはオンライン書店として事業を始め、20年あまりで世界有数のインターネット企業へと成長した。その経営手法には多くの企業が学ぶべき点があるものの、同社が直面している課題も直視すべきだ。
株式市場で高い評価を受けた背景には消費者の支持がある。長期的な視野に立って投資を継続し、取り扱う製品やサービスの幅を広げてきた。価格は競合する企業より安いことが多く、円換算で年間20兆円近い売上高をあげる原動力となった。この規模になってもなお、2ケタ成長を続けている。
ただ、配慮が要るステークホルダー(利害関係者)は消費者だけではないはずだ。こうした観点でみると、問題もなくはない。
アマゾンは世界で60万人近くを雇い、その多くが物流センターで働く社員だ。だが、米国の有力議員は現場の社員の給料が少なく、政府の生活支援に依存していると批判を強めている。傘下の食品スーパーでは一部社員が処遇の悪化に不満を持ち、労働組合の結成に向けて活動を始めた。
同社は多くの企業から在庫管理や発送といったネット通販の実務を請け負い、インフラとしての役割も担っている。
代行業務が増えて業績を押し上げる一因となっているが、委託元の企業からは「他社の製品の販売動向を分析し、売れ筋と判断すると自社で安く売る」との批判もあがっている。日本では2017年、競合するLINEの人工知能(AI)スピーカーを排除する動きが表面化し、問題となった。
アマゾンは労働者の権利や公正な競争を担保する法律を守ることはもちろんだが、社会に疑念を抱かせる行為も慎むべきだ。各地で巨大ネット企業に対する監視の目が厳しさを増していることを自覚し、社会との対話を増やすことが求められている。
これまでは消費者を重視する姿勢を貫いて事業を急速に伸ばしてきたが、一点に集中するだけではさらなる成長はおぼつかない。成長段階に応じて社会とのかかわり方を見直す必要がある。これはアマゾンに限らず、世界の多くの企業に当てはまる教訓だ。