総裁選で経済再生への具体策が聞きたい
自民党総裁選の本格的な論戦が始まった。安倍晋三首相(総裁)と石破茂元幹事長は活力ある日本を次世代に引き継ぐ決意を強調したが、経済再生や財政健全化に向けた具体案はほとんど語らなかった。重点政策の中身を示し、議論を深めていく姿勢が必要だ。
ふたりは10日、北海道の地震で延期された所見発表演説会と共同記者会見にそろって臨んだ。
首相は長期政権のおごりへの批判を念頭に「私にとって最後の総裁選。自ら省みて改めるべき点は改め、謙虚に政権運営に当たる」と語った。現政権の5年半あまりの経済運営に関しては、成長率や雇用、税収増などのデータを列挙して成果を強調した。
消費税率は2019年10月に予定通り10%に引き上げる方針を示し、税収増の一部を子育て世帯や教育に振り向けると説明した。同時に「すべての世代が安心できる社会保障制度へと3年で改革を断行する」と訴えた。
石破氏は経済再生の核に地方創生を位置づけると述べた。「地方、中小企業、農林水産業に伸びしろは一番多くある」と指摘し、急速な人口減こそが「最大の国難」との認識も示した。ただ、どうすれば地方の底力を引き出せるのかは詳しく語らなかった。
消費税率の引き上げは支持し、その後の対応は医療、年金、子育てなど社会保障のあり方を議論する会議を創設し、将来の税負担と一体で検討すると説明した。
人口減社会を見据えた長期戦略を総裁選で議論する意義は大きい。とはいえ、首相が日本経済新聞のインタビューで示したスケジュールは、まず1年で生涯現役時代にふさわしい雇用制度を構築し、「次の2年で医療・年金など社会保障制度全般にわたる改革を進める」というものだ。
検討段階にそんなに時間をかける余裕があるとは思えない。安倍政権はこれまでも基礎的財政収支の黒字化目標や社会保障の抜本改革の議論を先送りしてきた。
アベノミクスの大胆な金融緩和や機動的な財政出動は、円安などをもたらした一方、企業経営や家計、株式・債券市場にさまざまな副作用を与えている。
日本の生産性や潜在成長率をいかに高め、財政健全化とどう両立させていくかは、総裁選の最大の争点であるべきだ。具体的な選択肢を国民に示していく責任が与党第1党の自民党にはある。