スルガ銀は経営再建へ社風を刷新せよ
「地方銀行随一の高収益体質」「先進的なビジネスモデル」。こんな看板は見せかけだけだった。静岡県を本拠とするスルガ銀行の第三者委員会がまとめた調査報告書によると、シェアハウスやアパートなど高リスクの投資用不動産向け融資で、審査資料の都合のよい改ざんが横行していた。
営業部門の相当数の社員が貸出先の預金残高を勝手に水増しするなど不適切な行為に関わり、黙認した。偽装の疑いが濃い案件は2014年以降だけで795件もあり、不正は組織ぐるみだった。創業家出身の岡野光喜会長や、米山明広社長ら経営首脳が退陣したのは当然である。
安定しているが、もうけの薄い地元法人向け貸し出しを圧縮し、リスクはあるが利ざやの厚い個人取引を全国展開する。地域経済と密接不可分な地銀としては、大胆な戦略を推進したスルガ銀は2017年3月期まで最高益を更新し続けてきた。全国のほかの地銀が低金利のあおりで収益低迷に苦しむなかでも稼ぐ「異形」の銀行を、株式市場だけでなく、金融庁も一時は評価した。
問題は最高益の達成が自己目的化してきてからだ。同行は上場銀行としては珍しく創業家が大株主と経営首脳を兼ねてきた。最高益を記念した増配や、株価上昇は彼らの利益に直結する。
本来、営業部門の行きすぎは審査部門が制御しなければ銀行業は成り立たない。だが、収益至上の社風の下で、異を唱える審査担当や無謀な利益目標を達成できない営業マンは上司に罵倒されたという。ガバナンス(企業統治)もコンプライアンス(法令順守)もなおざりだった。
目先の実績を積み上げるために貸せないはずの顧客に融資したのは、10年前の米サブプライムローン(信用力の低い個人向け融資)問題と共通点が多く、今後追加損失が生じるのは避けられない。新経営陣が単独での生き残りを目指すにしろ、他社との提携を模索するにしろ、経営再建には創業家の影響力を排除し、社風を根本から改めることが欠かせない。
近くスルガ銀に行政処分を出す金融庁にも責任がある。金融危機の収束を踏まえ、検査局を廃止するなど銀行経営の自主性を尊重する監督方針に移行した。この方向は間違っていない。だからこそ、スルガ銀問題を周到かつ適切に決着させる手腕が求められる。