時代に合った住民票制度に
総務省の有識者研究会が住民票制度の見直しを求める報告書をまとめた。引っ越しなどで抹消される住民票の保存期間を延ばすことが柱だ。所有者がわからない土地が増え、社会問題になっていることを受けた改革案といえる。
住民票は市町村が住民の居住を公に証明する制度だ。氏名や住所、生年月日などが記載され、自治体が行政サービスを提供する基礎になっている。マイナンバーカードや電子申請に必要な電子証明書なども、住民票の情報をもとに発行している。
対象者の転居や死亡で住民票は抹消されるが、市町村は現在、「除票」と呼ばれる転出先などもわかる記録を5年間、保存している。研究会は今回、この保存期間を戸籍と同じ150年に延ばす法改正を求めた。
背景にあるのは、すでに九州の面積を上回るといわれる所有者不明の土地の存在だ。不動産登記簿に持ち主が記載されていても、実際には引っ越していて、住所がわからない事例が増えている。
登記簿上の所有者が死亡している場合、相続人を探す必要があるが、これも困難になっている。150年という長期間、除票を残すようにすれば、住所をたどることはかなり容易になる。
家族関係の変化なども影響しているのだろう。かつては家族や近隣住民に聞けば、転居先を把握できる場合が多かった。単身世帯が増え、地縁関係も薄れた現在では、格段に難しくなっている。こうした時代の変化が制度の見直しを後押ししている。
一方で、個人情報の保護という面では不安もある。除票の保存期間を大幅に延ばすなら、その写しの不正取得を防ぐ対策も抜本的に強化すべきだ。
住民票は海外に転居した場合も抹消され、電子証明書が失効する。その結果、海外居住者はネット上での本人確認や電子申請ができなくなり、問題になっている。この点についても、早期に解決する必要があるだろう。