汚染水処理は丁寧な議論を
東京電力福島第1原子力発電所の汚染水処理に関する経済産業省の公聴会で、海への放出に慎重な意見が相次いだ。背景には風評被害への懸念に加え、国や東電に対する不信感がある。時間はかかっても丁寧に議論を積み上げ、解決策を見いださねばならない。
福島第1では地下水や、原子炉を冷やす水が汚染される。浄化装置を通しても放射性物質のトリチウムは除去できず、900基近いタンクに保管している。敷地は埋まりつつあり、なんらかの方法で減らす必要がある。
低濃度のトリチウムは危険性が極めて低いとされる。基準値以下なら海洋放出が認められ、通常の原発からも出ている。福島第1の汚染水も浄化処理後、十分に薄めて放出すれば科学的に問題はないと多くの専門家が指摘する。
だが、地元にとっては容易には受け入れがたい。特に漁業関係者は、試験操業で少しずつ水産物への安心感を広げてきた努力が台無しになると警戒する。
経産省は汚染水問題について広く理解を得るとともに一般の意見も集約し、打開策を探ろうと公聴会を開いた。残念ながら、その目的を果たせたとは言い難い。
公聴会は3会場で開いたが、公募で選ばれ意見を言えたのは各回十数人。発言時間も短く、十分なやりとりができなかった。
浄化処理後の水に、トリチウム以外の放射性物質が基準値を超えて検出された例があることも問題になった。東電のデータを細かく調べないとわからず、公聴会の配布資料にもなかったため、経産省や東電への不信感を高めた。
形だけの公聴会という受け止めもあるなかで、結論を急ぐのは好ましくない。経産省が意見募集期間を急きょ1週間延長し、今月7日まで、としたのは妥当だ。
汚染水のリスクは何か。海洋放出がなぜ現実的なのか。実施する場合の条件は何か。住民参加型の対話集会などを重ね、透明性と信頼の確保を第一に具体的な処理法を議論すべきだ。