日米欧覆う賃金低迷を打開するには
失業率が下がって労働需給が引き締まっているのに、賃金がなかなか上がらない。そんな問題を日米欧が抱えている。グローバル競争の激化で企業がコスト削減を一段と強めていることなどが原因とみられている。
能力開発の強化など賃金上昇に欠かせない生産性向上のための政策に、日米欧は積極的に取り組む必要がある。
米国は好調な景気を背景に、7月は失業率が3.9%まで低下した。ただ平均時給の伸び率をみると、前年同月比2.7%と堅調なものの、金融危機前の3%台半ばには届かないままだ。
欧州も足元では失業率低下で賃上げが広がりつつあるが、賃金の伸びは鈍い。2000年代前半までの景気回復局面ではユーロ圏全体で時間あたり賃金の上昇率が2~4%あったが、現在の回復局面では1%から2%台前半だ。
日本も雇用情勢の改善が進んで有効求人倍率は1.63倍まで高まっているが、所定内給与の伸びは1.1%にとどまる。
世界の企業は労働集約型の生産やサービスを低コストの国に移す動きを強めている。インターネット経由で単発の請負仕事を発注する、「ギグ・エコノミー」と呼ばれる就業形態も広がっている。
定型的な業務が人からロボットに置き換わる動きもみられる。これらの流れが加速すれば賃金抑制の傾向が強まる可能性がある。
日米欧に共通して求められるのは、IT(情報技術)を使いこなす人材を増やすなどで1人あたりが生む付加価値を高めることだ。職業訓練の充実が必要になる。
人工知能(AI)が普及すればデータの分析力や専門知識を持った人材の需要が伸びる。働きながら学ぶことは、より重要になる。
日本の場合、欧米に比べて低い生産性の改善は急務だ。日本生産性本部によると、日本の労働生産性は製造業で米国の7割、サービス産業で5割の水準にある。
成長力を失った企業の淘汰・再編を進みやすくしなければならない。企業統治を強め、規律ある経営を促すことが欠かせない。収益性の高い分野に人材が移りやすい柔軟な労働市場の整備も課題だ。
米中両政府の関税引き上げが世界景気を冷やす懸念もある。環境が不透明さを増すなかで企業が自律的に成長するためにも、日本の経営者は生産性の引き上げに力を入れるべきだ。