世界に禍根を残す米墨のNAFTA合意
米国とメキシコが北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しで大筋合意した。自動車の輸入関税を撤廃する条件を改め、米国産部材の調達が実質的に増えるような規則や条項を盛り込む。
両国の貿易摩擦は緩和しそうだが、自動車産業の供給網に影響を与えるのは必至だ。制裁措置の発動をちらつかせ、他国に譲歩を迫るトランプ米政権を勢いづかせる恐れもある。世界に禍根を残す合意と言わざるを得ない。
トランプ政権は1994年に発効したNAFTAの見直しを公約し、2017年8月から再交渉を続けてきた。カナダを含む3カ国で最終的な合意にこぎ着け、11月の中間選挙に向けて成果をアピールしたい考えだ。
米国が強く迫ったのは、域内の部材調達比率を定める「原産地規則」の強化だ。現在は域内で62.5%以上の部材を調達すれば、完成車の関税がゼロになる。メキシコはこの基準を75%以上に引き上げることで折り合った。
部材の40~45%を時給16ドル以上の地域で生産するよう求める「賃金条項」も盛り込む。これらの措置を通じて、賃金が相対的に高い米国からの部材調達を増やす狙いがある。米国の安全保障を理由に、メキシコの自動車に高関税を課すのは見送るもようだ。
米国はNAFTAの名称変更や2国間協定への置き換えもにじませているが、北米の自由貿易圏が崩壊するリスクはひとまず後退した。5年ごとに協定を更新しないと自動的に失効する「サンセット条項」や、他国の通貨安競争を封じる「為替条項」の導入を見送るのも妥当だろう。
だが日本を含む主要国の自動車メーカーが供給網の見直しを強いられ、コストの上昇や生産効率の低下につながる恐れがある。世界経済への影響を最小限に抑えるためにも、十分な移行期間の確保や柔軟な運用を求めたい。
米国は鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を韓国に適用しない代わりに、米韓自由貿易協定(FTA)の見直しを要求し、米国仕様車の輸入枠拡大などをのませた。今回の合意でさらに味をしめ、自動車関税の発動をちらつかせて、日本や欧州連合(EU)の譲歩も引き出す可能性がある。
こうした手法がまかり通るのでは、世界の自由貿易体制が揺らぎかねない。米国は一方的な制裁や要求を厳に慎むべきだ。