クックパッド、IoTで料理楽しく レシピで新市場生む
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
レシピはネットの普及とともに利用が急拡大したコンテンツのひとつであり、もはや我々の食生活においては欠かせないものとなりつつある。そんなレシピ業界では「デリッシュキッチン」や「クラシル」などの新興動画レシピサービスが急速に勢いを伸ばしている。
スマートフォン(スマホ)の台頭でヤフオクが新興のメルカリに市場を奪われた構図を考えると、圧倒的にレシピ業界のトップの座を守ってきたクックパッドの動向に関心を持つ読者も多いだろう。
総レシピ数289万、月間利用者数5500万人を誇るクックパッドの新しいステージへの挑戦はとてもユニークで意欲的だ。
あらゆるモノがネットにつながるIoT家電はメーカー主導のものが多く、家電にネットワーク機能を付加したけど値段だけ高くなって便利になったかどうかよくわからない製品も多数開発されてきた。それらはハードウエアありきの発想であり「電子レンジを高度化する」などあくまで既存の家電+αの発想だった。
サービス事業者であるクックパッドは、レシピをデジタルデータとしてキッチン周辺のIoTデバイスで活用できるようにすることで、料理そのものをさらに楽しく便利なものにしていくことを考えた。例えば試作品を開発中の調味料サーバーは、これまで存在していない。
料理の行程でレシピを見る、調味料を出す、計量スプーンを出す、計る、入れる、また違う調味料を出すなど複雑な工程が多数存在し、レシピと連動した調味料サーバーがあればボタン一発で必要な調味料が全て出てくるため非常に料理の行程が簡略化されることになる。こうした発想はやはりレシピデータを扱う事業者ならではと言えるだろう。
先日のイベントでクックパッドは調理機器とレシピをつなぐスマートキッチンプラットフォーム「OiCy」のパートナー企業が10社となったと発表した。アマゾンウェブサービスジャパンのほか、シャープや日立アプライアンスといった家電メーカー、LIXILなど多種多様な企業が参画しエコシステムを形成している。データを広く流通させることで単体のIoTデバイスではなく,利用者も含めたキッチン全体をスマートにすることで便利で楽しい料理の世界を広げていくことを狙っている。
事業開発部「クックパッドベンチャーズ」グループリーダーの住朋享氏は「世界中のスマート家電などに向けて統一されたAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)やデータを提供することで、あらゆる消費者が料理を楽しめるようにしたい」と意気込みを語る。
レシピをデータ流通の価値と捉える動きはほかにも出てきている。スタートアップ企業のOPENSAUCE(金沢市)は世界中のレシピをオープンソース化し、食文化の伝承と融合と新しい発展を目指している。
このようにレシピというデータを広く流通することで新しい価値を生み出す可能性は大きい。これまで企業秘密にして流通していなかったレシピデータも世の中には多数あるだろう。
しかしこれからの社会はデータを流通させればさせるほど新しい価値を生み出し、バリューチェーンも広がる。データを開放し市場全体の生態系を生み出すようなアプローチが新しい産業創造のチャンスだ。そしてメーカーとサービス業の垣根を越えたアプローチが今こそ求められていると言える。
[日経MJ2018年8月17日付]