本番迎えるフィンテック
新風シリコンバレー 米NSVウルフ・キャピタルマネージングパートナー 校條浩氏
最近、複数の日本企業の経営トップや幹部から「シリコンバレーではもうフィンテックのブームは終わりだと聞いたが本当か?」と言われ、驚いた。私のところではいろいろな領域の新技術の情報を多くのベンチャーキャピタル(VC)から入手し、日本企業をはじめ世界の企業に提供している。むしろ「フィンテックはこれからが本番」との認識だ。
周辺分野を入れない狭義のフィンテック系ベンチャー企業を私のところでは現在、2400社ほど確認している。今年3月までのこの分野での累積投資額は約930億ドル(約10兆2000億円)に上る。2011年の投資額は約20億ドルだったが、15年までにうなぎ登りとなり、約180億ドルに膨らんだ。それ以降は、年間200億ドル前後の投資額で推移している。比較のために日本のスタートアップ投資額を見てみると、フィンテックなどすべての分野を含む総額は2700億円くらいといわれているから、米国での投資額の大きさが分かる。
フィンテックの中身をさらに見ると、私のところの分析では16の分野がある。そのうち、決済(ペイメント)と融資(レンディング)の両分野のスタートアップ投資額だけで全体の4分の3を占める。
SoFiは米国の学生が在学中にローンを組むことに交流サイト(SNS)型の相互融資モデルを導入して急成長した。15年にはソフトバンクなどから10億ドルを調達して話題となった。日本の学生はローンをしないので当てはまらない、と思うのは早計だ。ハーバード大学内の情報交換から始まったフェイスブックがSNSの王者になったことを考えれば、想像を膨らませることができるはずだ。
これらの分野ではビジネスモデルが明確になってきた。だから、スタートアップへの出資額が大きい反面、創業数はほぼ一定となってきている。これはフィンテックが本格的に産業として確立しつつあることを意味している。
決済および融資以外の分野の投資額は全体の4分の1しかないのに、企業の数は3分の2に上る。中小企業向けのツール、店舗での決済、個人の資産管理・運用、銀行のシステムなどの「その他」の分野では個々の投資額は比較的少ないが、多くの企業が創業されている。新しいビジネスモデルが試される注目の分野なのである。
中身を丁寧に分析すれば、「フィンテックのブームは終わった」との噂を信じることはないだろう。世の中にはまことしやかな情報はあふれている。正しく理解するには信頼できる筋に事実関係を確認することが望まれる。
最新のビジネスモデルに関しては、シリコンバレーの老舗VCよりも新興のVCから情報を得ることが大事になっている。そのような最先端の新興VCと人的ネットワークを築いている日本人はほとんどいない。手始めに足を使って聞きに行く努力が必要だ。先端分野の動きを自信を持って判断するきっかけになるに違いない。
[日経産業新聞2018年8月14日付]
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