自由貿易の原則を曲げない日米協議を
日米両国が新たな貿易協議(FFR)の初会合を終えた。米国が日本との自由貿易協定(FTA)を念頭に置く2国間交渉を迫ったのに対し、日本は米国の環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を求め、双方の溝が埋まらず具体的な合意を持ち越した。
両国は9月下旬までに次の会合を開く予定だが、自由貿易の原則を曲げるような協議であってはならない。米国が検討している自動車の高関税を避け、建設的な輸出入の促進策を探るべきだ。
FFRは4月の日米首脳会談で合意した枠組みで、茂木敏充経済財政・再生相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表が率いる。9~10日に開いた初会合では、日米貿易の促進に向けた協力分野の拡大で一致した。
米国は日本との2国間交渉を始め、農産物の市場開放などを迫りたい考えだ。国の安全保障を理由とする自動車関税の発動をちらつかせ、日本の譲歩を引き出そうとする公算が大きい。
鉄鋼やアルミニウムだけでなく、自動車にまで高関税を課せば、世界の経済に深刻な打撃を与える恐れがある。米国はこれを自制するのが筋で、日本との取引材料に使うのは許されない。
貿易不均衡の是正を急ぎ、日本に輸出の自主規制や輸入の数値目標などを迫るのも容認できない。市場原理に反する管理貿易の手法は厳に慎む必要がある。
日本がTPPへの復帰を粘り強く働きかけるのはいいが、米国はのってきそうにない。TPPの基準やルールを逸脱しない範囲で、どんな協力ができるかを慎重に検討してもらいたい。
中国の知的財産権侵害の是正や世界貿易機関(WTO)の改革で、日米両国が連携するのは歓迎だ。2国間の貿易問題だけでなく、国際的な通商問題の解決策も探る協議であってほしい。
心配なのは日本がFFRへの対応に追われ、自由貿易圏を広げる取り組みが滞りかねない点だ。日本は米国を除く11カ国の「TPP11」や、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の早期発効に努力し、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉妥結を主導しなければならない。
米国との摩擦を和らげ、良好な関係を維持するのはもちろん重要だ。それにとどまらず、保護貿易の世界的な拡散を防ぐ責任も、日本にはある。