安全見極めiPS治験前進を
京都大学のグループが、iPS細胞を使った再生医療でパーキンソン病を治療する世界初の臨床試験(治験)に着手した。国内患者は約16万人といわれ、根本的な治療法がないため期待は大きいが、難易度が高いだけに慎重に進め、安全な治療法を確立してほしい。
パーキンソン病は脳内の情報伝達物質ドーパミンを出す神経細胞が失われ発症する。手足の震え、歩行困難などの運動障害のほか、認知機能の障害も起こす。ドーパミンの補充や電極を使う治療法があるが、効果は限定的だ。
治験では京大が備蓄する他人のiPS細胞からドーパミンを出す神経細胞を作り、患者の脳に注射する。米欧では受精卵から得られる万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)を使う治験計画があるが、日本は得意のiPS細胞利用によって一歩先んじた。
良好な成績が得られ、移植用の細胞が医薬品として承認されれば保険適用の対象となる。京大は将来的に費用を数百万円に抑えたいという。治療の選択肢が増えれば患者にとって大きな希望になる。
ただ、課題も多い。京大の計画では500万個もの細胞を脳内に入れる。がんの発生や拒絶反応の問題はないか、異常をすぐに把握できるかなど不安もある。
京大の高橋淳教授はサルを使った実験などで繰り返し安全性を確かめたと強調したが、ヒトと動物は常に同じ反応を示すわけではない。治験では、まず何よりも安全性確認に全力をあげてほしい。計画を認めた医薬品医療機器総合機構(PMDA)の責任も重い。
パーキンソン病治療のための再生医療では、関係機関の国際連携が進んでいる。患者の個人情報保護などに配慮しつつ、可能な範囲で海外の専門家らと知見や情報の交換をすることも大切だろう。
世界で研究が進む遺伝子治療などに比べた場合の、技術やコスト面の利点なども国や京大は丁寧に説明しなくてはならない。そうした実績が、他の神経疾患のiPS細胞治療にも役立つはずだ。