体験価値化するデジタルアート 言葉越える「非日常」魅力
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
お台場でチームラボが2つのイベントを同時に実施して話題となっている。1つは2016年にお台場で実施されていたイベントの第二弾である「DMM PLANETS Art by teamLab」だ。前回は20万人以上を動員し、終盤は入場待ちの大行列になったイベントが今回は3倍の広さで2020年の東京五輪まで開催される。
もう1つは森ビルと組んだ「MORI Building Digital Art Museum: EPSON teamLab Borderless」。こちらは恒久的なミュージアムとして運営されている。どちらもチームラボ特有の観客が自らアート作品の一部として入り込み、非日常の体験価値を得られるというところが魅力だ。すでにどちらも当日券が売り切れたり、行列ができたりするなど人気になっており、デジタルアートはビジネスとして成り立つ段階に来たと言えるだろう。
展示内容はプロジェクションマッピングやサイネージなどデジタル技術を駆使したアート作品が中心だ。動画などのデジタルコンテンツは今やスマホでいつでもどこでも手軽な費用で体験できる。しかしチームラボの作品は身体で体験するアート作品であり、お台場のミュージアムにお金を払って行かなければ体感できないものとなっている。デジタルとリアルの場の価値を融合して「わざわざそこに行かなければ体験できない価値」を生み出せるのがデジタルアートの力だ。
森ビルの戦略としても自社の商業施設ヴィーナスフォートへの送客効果を狙っているだろう。またデジタルアートは写真との相性が極めて良い。当然ながら「インスタ映え」としての価値もある。体験した人がその体験をSNS(交流サイト)で発信することで、体験者自身がプロモーションをしてくれることで次々と体験したい人が増えるというところもデジタルアートの魅力だ。
デジタルアートは新しいアーティストも生み出している。仮想現実(VR)アーティストのせきぐちあいみさんは、VR空間に3次元の浮世絵やねぶた、遊園地などのアート作品を描いて人気になっている。リアルな世界でパフォーマンスをしながら仮想空間に作品を作り上げていくので、観客は彼女のパフォーマンスで2つの世界を同時に見るという新しい世界を体験できる。すでに米国や独、タイ、マレーシアなど海外でパフォーマンス公演も実現している。
VR作品はHMD(ヘッドマウンドディスプレイ)を付けて体験できるところも魅力だ。ディスプレイでは平面に見えても、仮想の3次元空間では様々な仕掛けを発見できることもアート作品としての面白さにつながっている。せきぐちあいみさんは「情緒や温度、空気感などを感じられるものを創って別世界に連れて行きたい」と技術革新への期待を語る。
デジタルアートはネットで流通するデジタル作品と比べて、リアルでの新しい体験価値を生み出し始めている。顧客が楽しめる作品を通じたエンターテインメントとしての非日常体験は、技術革新により今後ますますクリエイターの挑戦マインドをくすぐることになるだろう。同時に新しいビジネス市場としての可能性も秘めている。
言葉の垣根を越えたデジタルアートは、グローバルビジネスとしての可能性も大きい。チームラボもせきぐちあいみさんも海外から高い評価を得ている。日本としても戦略的にクリエイターを育成し、市場を広げるチャンスが見えている領域なのではないだろうか。
[日経MJ2018年7月20日付]
関連企業・業界