経営トップ自ら飛び込め
新風シリコンバレー (校條浩氏)
今、シリコンバレーは日本企業の進出ラッシュだ。シリコンバレーで誕生する毎年数千社のスタートアップのほとんどはベンチャー・キャピタル(VC)の投資を受けて成長していくので、VCとの接点も重要だ。日本企業の課題は何か。
まず、スタートアップが大企業側の興味や都合で動いてくれるとは思わないことだ。スタートアップは時間が勝負。特に人員や資金が少ないアーリーステージ(初期の資金調達フェーズ)では大企業にお付き合いしている時間はない。大ざっぱに言って、スタートアップの累積資金調達額が1000万ドルを超えるまでは、大企業との提携や海外市場の検討を始める余裕はまだないとみるべきだ。
アーリーステージでコンタクトしておきたいという気持ちもあるだろう。その場合はそのスタートアップに出資しているVCに相談するのがいい。VCのパートナーはたくさんのスタートアップとの接触があり、超多忙。簡単には会えないので個人同士のつながりが大事だ。このような人脈は長期的な活動で醸成され、一朝一夕では築けない。
人事ローテーションで担当者がよく変わる日本企業の現状では、人脈づくりは困難と言わざるを得ない。日本企業は2000年のドットコムバブル崩壊、08年のリーマン・ショックなどの停滞期に潮が引くように担当者を日本に戻した。再びシリコンバレーでの活動を強化しようとしても、地元のビジネスマンやVCから失った信用を再び勝ち取ることは大変なことだ。
もうひとつ日本企業が認識すべき現実は、シリコンバレーから見て日本が「普通」の国になったことだ。日本の半導体やコンピューター産業が破竹の勢いだった頃は「ジャパン・バッシング」をされながらも強豪としての尊敬があった。中国が台頭すると、日本を飛び越して「ジャパン・パッシング」と言われ、「失われた20年」の間に「ジャパン・ナッシング」となった。お行儀はいいが、パンチがなくなり、気にする必要がない存在という意味だ。日本というだけで注意をひける時代は終わったのだ。
ではシリコンバレーで日本は希望がないのかというと、そんなことはない。
ある日本の大企業は経営トップが自らシリコンバレーの価値を理解し、思い切った意思決定をしている。シリコンバレーを頻繁に訪ね、その流儀を真摯に受け止め、トップ自らが自社のしきたりを飛び越えて矢継ぎ早に施策を打っている。
そうしたらどうだろう。シリコンバレーの重鎮が協力し始め、インナーサークルのキーパーソンがプロジェクトに参加し始めた。トップの片腕のプロジェクト担当者は、これらの人脈を通して日本人が知らないインナーサークルに入り始めた。日本人が信頼に足ることは知られているから、経営トップ自らがコミットして動き出せばシリコンバレーも扉を開けるのである。
シリコンバレーのコミュニティーは個人を中心にイノベーションを追い続ける。経営トップさえその気になれば日本企業の逆襲は大いにチャンスがある。
[日経産業新聞2018年7月3日付]