EUのGDPR、「GAFA」に対抗 「データ三国志」争い激化
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
欧州連合(EU)で施行された一般データ保護規則(GDPR)が話題になっている。GDPRに違反した企業には「2000万ユーロ(約26億円)または世界売上高の4%のいずれか大きい方」という巨額の制裁金が科されることでも注目されている。EUで個人データを活用する企業に適用されるため、未対応のままという日本企業で戸惑う声が多い。
GDPRが施行された背景のひとつが、GAFAと呼ばれるグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルなどのグローバル巨大プラットフォーマーの台頭だ。
いつの間にかこれらの企業のサービスが生活のあらゆる局面に入り込み、利用者は全ての利用データを吸い取られている。GAFAは米国企業であり米国が世界中の生活者のデータを全て牛耳ることに対して、FU側の反抗という側面も大きい。あくまで「EU市民のデータは米国企業のものではなく個人のもの」というデータ主権を取り戻す動きでもあると言えるだろう。
一方でネットビジネス分野で急成長が続く中国ではデータ管理は中央集権的だ。フェイスブックやツイッターが中国内で利用できないことは有名だが、インターネット回線を流れるデータも事実上管理されており、まさにデータは国家のものだとも言えるだろう。
だが、その中国で世界トップレベルのイノベーション(革新)が進んでいるのも事実である。キャッシュレス化が進み、顔画像だけで買い物もできる。国民のあらゆる行動データからの格付けが行われ、格付けが低い人は飛行機に搭乗できないなどの例も出てきているようだ。
監視社会の問題も大きいが、変革を促すスピードという意味では権利と権利の折り合いをつける必要がなく進める点では効率的な側面があることは事実である。
そうした中央集権型国家主権とは正反対の動きがやはりEUで進んでいる。エストニアでは電子国家化を急速に進めており、その思想は急進的だ。もはや土地にしばられない新しい国の形の模索として、サイバー空間上でe-Residencyと呼ばれる電子居住権を発行している。
なんと日本からでも申請し、パスポートを大使館に持っていけばエストニア住民になれるのだ。世界中の誰もがエストニアで銀行口座を作ったり、会社を登記し、ビジネスをできるようになる。その行動データは世界中の電子市民のものなのだ。
こうした思想はブロックチェーン技術の広がりとともに拡大しつつある。ブロックチェーンは技術そのものが中央集権から分散管理を促すものだ。特定のプラットフォーマーや国家に依存しない新しい仕組みが次々と提唱されている。
デジタルデータが大きな資本価値を持ちつつある現在、「国家」対「グローバルプラットフォーマー」対「個人」というまさに「データ三国志」とも言える戦いがデータをめぐる覇権争いとして始まっている。
効率的な完全監視社会を目指す国家のものか、資本主義による市場原理こそがダイナミズムを生むと信じる巨大グローバル企業のものか、それとも一人一人が自立した個として国境を越えた新しい分散型社会を信じる個人のものなのか。その答えはすぐに出ることはなさそうだ。
当面はこの3つの勢力が同時に発展を続けるだろう。ただ一番大事なのは、利用者が所属すべきところを自分で選べることなのかもしれない。
[日経MJ2018年6月22日付]