米中の貿易戦争で世界を危険にさらすな
米国と中国の二大経済大国が、相手国からの輸入品に高率の関税を課すと発表した。本格的な貿易戦争に発展し、世界経済を危険にさらす恐れがある。
性急な制裁や報復を避け、交渉を通じて摩擦を緩和できないのか。米中双方が歩み寄り、高関税の発動を撤回すべきだ。
米国は中国の知的財産権侵害への制裁措置として、500億ドル相当の輸入品に25%の追加関税を課すと表明した。7月6日に340億ドル分を発動し、時期をみて160億ドル分を追加する。
中国も同じ規模、時期、税率の報復措置に動くと宣言した。米国は鉄鋼やアルミニウムの輸入制限で欧州やカナダなどとの対立を深めているが、中国との摩擦はそれ以上の緊張を強いる。
中国の知的財産権侵害については日欧なども問題視しており、主要国が連携して改善を促したい。米国がその努力を怠り、国際ルールに反する一方的な制裁に踏み切るのは遺憾だ。
米中は最近まで、貿易不均衡の是正に向けた協議を重ね、歩み寄りの道を探ってきた。中国が農産物やエネルギーの輸入拡大を受け入れたため、米国は制裁を留保すると言明したが、その約束をほごにした経緯がある。
米国は中国からの投資を制限する措置も検討中だ。苦心して積み上げた合意を白紙に戻し、強硬策に走るのは危うい。
中国は米国と日本から輸入するヨウ化水素酸などにも、高関税を課すと発表した。米国への報復が他国にも波及したとみられる。過剰な対応は慎んでほしい。
米中が高関税を課す7月6日までには、幸いまだ時間がある。高官による協議を再開し、発動回避の道を探るべきだ。
米国は中国との貿易不均衡だけでなく、国内産業の育成戦略である「中国製造2025」も目の敵にしている。その重点分野の多くが今回の制裁対象に含まれており、技術覇権をめぐる米中の攻防が絡んでいるのは間違いない。
中国は東・南シナ海への進出や広域経済圏構想「一帯一路」なども通じて既存の秩序に挑み、米国は封じ込めの圧力を強めている。こうした覇権争いが底流にあるだけに、米中の貿易摩擦も一朝一夕には解決しそうもない。
それでも両国は対話の窓を閉ざさず、決定的な衝突を避ける努力を続けてほしい。