事業革新へ3つのプラン
新風シリコンバレー (校條浩氏)
「シリコンバレーをテコに、どのような方法で自社の事業イノベーションにつなげればいいか」。経営トップからこんな相談を受けることが多い。オープンイノベーションは日本企業にとってなじみが薄く、戸惑うのは致し方ない。
彼らの共通の考えは、おおむねこんな感じだ。「顧客と接する現場からのニーズを拾い上げ、それに対応した技術を持つベンチャーを見つけ、日本に導入しよう」――。これは間違ってはいないが、本来の目標からすると不完全だ。顧客ニーズに対応することは現業の改善にはなるが、事業そのもののイノベーションまでは行き着かない。そこで、ニーズ対応型の「プランA」に加えて「プランB」をお勧めしたい。
それは、シリコンバレーで多くのベンチャー企業を見るなかで、自社事業の将来にとって示唆に富むビジネスモデルを日本側にぶつけ、現場の反応を見るのである。これを継続することで、シリコンバレー側も日本側も感覚が研ぎすまされていく。事業の中期的展望に関して先手を打つには、このプロセスが有効だ。
ただ、日常の業務で多忙な現場の人たちに海外のベンチャー企業の評価をしてもらうのは、かなりハードルが高い。経営幹部が「これは業務の一環である」と部下に伝えることが鍵だ。
米スリーエムは、新製品を次々に開発する企業として知られている。その根幹には、15%の時間を通常業務以外に自由に使っていいというルールがある。しかし、ここで見落とされがちなのは、いくら売り上げが伸びても新製品の投入が少ない事業部長は評価されない仕組みになっている点だ。このように経営幹部のコミットメントが担保されるからこそ、15%ルールが機能するのだ。
さらに、業界外部からの破壊的産業転換の兆しを探知したり、逆に自ら革新的な新事業を仕掛けたりするための「プランC」を並行して進めよう。シリコンバレーでの投資活動、共同事業開発などを現地担当者に任せてしまうのだ。日本側からの意見を聞くかどうかは担当者の裁量とする。コンセンサス志向の日本的経営とは相いれない施策だ。
先進的、革新的かどうかは、最初は誰にも分からない。だから、革新的事業の発掘は、能力が研ぎ澄まされ、十分な経験を積んだ人材に任せるしかない。困ったことに、その人材でさえ未来は予言できないから、複数の案を並行して進める「ポートフォリオ」のアプローチを取る。
これは、結果的に失敗を想定しているところがプランA、Bとは根本的に違う。だから既存事業で優秀な人材がプランCに向いているとは限らないし、本社の管理手法ではリスクは管理できない。研究内容については研究者に任せる一方、リスク管理は全体予算の枠で行うといった研究所のマネジメントが参考になるが、経営者にとって厄介な方策なのには変わりない。
このように、シリコンバレー利用の経営手法は多面的で、トップが各施策の得失をよく理解した上で主体的に進めるべきであろう。
[日経産業新聞2018年5月15日付]