メディア揺るがす仮想通貨技術 権利保護やファクト確認
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
ニュースや動画、音楽など広範なメディアのあり方を、仮想通貨が変えてしまうかもしれない。仮想通貨を巡る投機含みの動きによってではない。仮想通貨を支える根幹技術である「ブロックチェーン」(分散型台帳)のメディアへの応用が始まろうとしているのだ。
ブロックチェーン技術は、インターネット上での情報の交換を改ざん不可能な履歴とするものとして考案された。これが仮想通貨に用いられていることは言うまでもないだろう。
だが、ブロックチェーンの用途はそこにとどまらない。取引記録が改ざんできないことや、契約当事者間で取り決めたことを自動実行するソフトウエア(スマートコントラクトと呼ぶ)を組み込めることなどから、ビジネス全体に応用できると期待されている。
実際、IT(情報技術)大手のIBMは、ブロックチェーン技術を流通業に応用すべく投資を進めている。
メディアではさらに応用する動きが活発だ。まず目につくのは、権利保護や少額決済への適用だ。先日、米国で上場した音楽配信世界最大手のスポティファイは、1年前に、ブロックチェーン技術を用いて音楽などの権利情報の管理サービスを開発するベンチャー企業、メディアチェーン社を買収した。
膨大な数のアーティストと楽曲に、これまた膨大な数のユーザーの利用履歴と組み合わせて印税を支払うには、著作権管理団体のような組織と多大な手間が必要というのが通り相場だ。だが、少額な取引であっても人手を介さず、正確に実行できるブロックチェーンの応用に期待が集まっている。
記事1本ごとや楽曲ごとに、権利者を改ざんされないよう記述できれば、広くコンテンツを流通させても、盗用の懸念が減るだけでなく、取引を広げることできる。アメリカの老舗新聞「ワシントン・ポスト」出身のベテランらが参加した「ポエット」は、ニュースのような記事配信にもブロックチェーンを応用しようとする。
さらに衝撃的なのが、ブレイブソフトウェア社が開発するウェブブラウザ「ブレイブ」だ。広告ブロック機能が標準で、その分、記事の表示が高速だ。従来型広告を表示しない代わりに、良質と選定されたメディアをパートナーに選定し、専用の仮想通貨(と交換できる疑似通貨)を表示の対価に用いる。すでに大手メディアのダウ・ジョーンズが、パートナーとなっている。
広告が収入源であることから、ページビュー(記事閲覧)を過度に求めるメディアのあり方を変えようとする試みが、日本でも誕生している。
ユーザー投稿型の仮想通貨関連メディア「ALIS(アリス)」は、記事の投稿はもちろん、記事の評価に対しても、疑似通貨を与える。同様のアイデアをファクトチェックに生かそうとする「ユーザーフィーズ」もある。権利保護、少額決済、そして評価指標づくりなど、ブロックチェーンの技術や発想が与える衝撃が広がっていく。
[日経MJ2018年4月30日付]