日欧結束し貿易戦争の阻止に全力挙げよ
「貿易戦争」に道を開く危険極まりない決定である。
米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)参加11カ国が新協定「TPP11」に署名したのと同じ日に、トランプ米大統領が鉄鋼とアルミニウムに輸入制限の発動を命じる文書に署名した。安全保障を理由に鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税をそれぞれ課す。
北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉をしているカナダとメキシコについては当面、高関税の対象から外すほか、日本を含む同盟国とも適用を外す協議に応じる余地を残した。それでも原則すべての国を対象とする異例の保護主義政策であるのは問題だ。米大統領に重ねて撤回を求めたい。
日本や欧州連合(EU)などは、高関税の対象から外すよう米国に求める。ただ、その条件として米大統領は米国の安全保障を脅かさない代替策を挙げている。高関税で一方的に譲歩を迫るやり方に、日欧は簡単に応じるべきではない。
米国の露骨な保護主義政策は座視できない。現状を放置すれば、ルールに基づく世界の自由貿易体制を維持するのが難しくなる。ここは日欧が中心となって米国の世界貿易機関(WTO)への提訴を検討すべきだ。
懸念される事態は、米大統領の決定を受け、各国・地域が米製品向けの関税を引き上げるなどの対抗措置を打ち出すことだ。さらに米国が対抗して高関税の対象を広げれば、報復の連鎖から実質的な貿易戦争に歯止めがかからなくなる可能性さえある。
1930年代の大恐慌は、各国が関税を引き上げるなどして自国本位の政策に走ったことで深刻になった。その再来は何としても阻止しなければならない。問題をつくり出したのは米国ではあるが、他の国・地域も安易に対抗措置を発動するのは控えてほしい。
米国が保護主義を強める中、TPP参加11カ国が米国の離脱から1年あまりでTPP復活の道筋をつけたのは大いに評価できる。米大統領は協定の修正を前提としたTPP復帰を検討する考えを示したが、米国を再び交えて交渉をやり直すのは非現実的だ。
11カ国は国内手続きを急ぎ、早期の協定発効を最優先してほしい。日欧の経済連携協定(EPA)も来年に発効させたい。日本は自由貿易の守護者として先頭に立って努力すべきだ。