シリアの混迷を拡大させるな
シリアの内戦が今月中旬で8年目に入る。長い混迷は出口が見えないばかりか、ここに来て戦闘が激しさを増し、周辺国を巻き込んで対立の構図が一段と複雑になる様相を見せている。
事態収拾に十分な手を打つことができず、内戦を泥沼に追い込んだ国際社会の責任は重い。未曽有の悲劇をこれ以上、拡大させてはならない。関係国は介入を自制し、内戦の終結に向けた連携を改めて探らねばならない。
アサド政権は2月から、首都ダマスカス近郊に残る最後の反体制派拠点とされる東グータ地区に激しい攻撃を加えている。空爆によって500人以上の民間人が犠牲になったという。化学兵器が使われた疑いも浮上している。
国連安全保障理事会は負傷者の救護や人道物資の搬入のため、東グータ地区を含むシリア全土で30日間の停戦を求める決議を採択した。だが、反体制派をテロリストと主張するアサド政権が攻撃を続け、決議は早くも破綻している。
政権の後ろ盾となっているロシアへの批判は免れない。プーチン大統領が指示した一日数時間の限定的な停戦すら守られていない。安保理の常任理事国としての責任を自覚すべきだ。
過激派組織「イスラム国」(IS)はシリアやイラクの支配領域をほぼ失った。米国やロシアが進めた掃討作戦の成果である。
心配なのは内戦の主要勢力や米ロにとって「共通の敵」が消えた結果、IS掃討で共同歩調をとってきた様々な勢力の立場の違いがあらわになり、新たな対立が表面化していることだ。
クルド人の影響力拡大を警戒するトルコ軍が国境を越えてクルド勢力の支配地域を攻撃した。シリア領内から飛来したイランの無人機がイスラエル領空に侵入、イスラエル軍機がシリアを報復攻撃するなど緊張が高まっている。
周辺国が内戦の当事者となりかねない事態だ。シリアの混乱が中東全域に広がる前に歯止めをかけなければならない。