「記事広告」明記に業界内で賛否
ツイッタージャパン代表取締役 笹本裕
飲食店評価サイトに投稿していた人がそれまでの投稿をすべて削除することになったというニュースがありました。この出来事を報じていたメディアによると、この人は飲食店から豪華な接待を受けていたそうです。そのため、投稿内容の公平性に疑問を持たれたということでした。
飲食店評価サイトに代表される「口コミサイト」には「インフルエンサー」と呼ばれる影響力の強い投稿者がいます。インフルエンサーの力を借りて行うマーケティングは効果的です。
しかし、都合のよい内容を投稿してもらうため、インフルエンサーに利益供与をすると、記事(投稿)に広告を潜り込ませる「ステルスマーケティング(ステマ)」と受け取られかねません。フェイスブックの写真共有サイトのインスタグラムについては、投稿に企業やブランドが関与しているかどうかを明記する機能が付く、というニュースもありました。
ステマのほかに、ネット広告の関係者の間でよく話題になるのが「ネーティブ広告」と呼ばれている広告の表記です。
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)はネーティブ広告を次のように定義しています。
「デザイン、内容、フォーマットが、媒体社が編集する記事・コンテンツの形式や提供するサービスの機能と同様でそれらと一体化しており、ユーザーの情報利用体験を妨げない広告」
つまり、一見すると記事のようなのだけれど、内容は広告というのがネーティブ広告です。
グーグルの検索結果ページに表示される検索連動広告や、ツイッターの上に表示される広告ツイートには「広告」や「プロモーション」という言葉が明記されています。いずれも、通常のコンテンツとは異なることがわかるようにしています。
広告を出す企業や、広告媒体の視点からネーティブ広告について考えてみます。人気サイトにご自分の会社の記事を「お金を払って」書いていただく場合を想定しましょう。編集部の記者が書いた記事と同じように見える「記事広告」と呼ばれる手法です。
読者に抵抗なく自分の会社についての情報を読んでもらいやすいので、記事広告は多くの企業に利用されています。企業の担当者としては、費用をかけるのですから、できるだけ多くの方々に読んでいただきたいと考えるでしょう。
皆さんは「記事広告」と書いてあるリンクをどのくらいの頻度でクリックするでしょうか。編集記事だと思って読んだ後に実は記事広告だと気づいたときにどのように感じられるでしょうか。
記事広告を出した企業や媒体の担当者が懸念するのは、「広告」や「タイアップ」と記載することによって読者が興味を失ってしまうのではないかということです。記事広告にしたことが裏目に出て、読んでくれる人が減ってしまっては元も子もありません。
2015年に米連邦取引委員会(FTC)はネーティブ広告のガイドラインを出しました。それは「広告であることを明記し、読者を誤解させない」というものでした。日本でもJIAAが「編集記事と誤認することがないよう、広告であることと広告主を明確にする」というガイドラインを策定しています。
業界では賛否両論があります。ツイッターなどで私が拝見しているところでは「新しいことがしにくくなる」というクリエーティブ面と「収益が下がる」というビジネス面の2つが反対派の大きなポイントのようです。
賛成派には「インターネットやオンライン広告の信頼のために」という意見が多く見受けられます。私はネット広告の関係者の1人として、広告だと明記しても多くの方々が見たくなる、読みたくなるものが増えてほしいと思っています。
[日経産業新聞2017年7月6日付]