デジタルネイティブの時代 木村忠正著
文化人類学の視点で若者を分析
文化人類学者が真剣に現代の若者たちを分析したらどうなるか。本書は、デジタル技術を若いときから駆使する「デジタルネイティブ」たちを対象とした文化人類学的分析の成果である。
インターネットや携帯電話などの情報通信ネットワークはダイナミックに変革を繰り返し、日本社会に組み込まれてきた。そして、デジタルネイティブは社会全体において存在感を高めている。この若者たちが社会の中核となっていくこれからを展望しようというのが著者のねらいである。
著者は人類学の手法を駆使し、量的な分析と質的な分析を組み合わせた「ハイブリッドメソッド」を用いている。その解説は、新書ながらも学術書のような丁寧さであり、データは著者が15年かけて蓄積してきたものである。
そこから見えてきた日本のデジタルネイティブたちには、4つの世代が存在している。その中でも、携帯電話のパケット定額制普及に高校時代に出会ったのが第3世代であり、中学時代に出会ったのが第4世代である。このわずかな環境の違いが、携帯電話を手放したくても手放せない若者たちを生み出した。
さらにおもしろいのは、ミクシィ、フェイスブック、ツイッターという3大ソーシャル・ネットワーク・サービスが、それぞれ「コミュニティ」「ソサエティ」「コネクション」という異なる集団形成原理に基づいているという指摘である。高度に個化が進展した消費社会では、継続的で安定的関係を期待することが難しくなっている。それが、空気を読んだり、相手との距離を気にしたりしなくてはならない電話やメールでなく、自由に発信できるツイッター利用の拡大へとつながっている。
意外にも、デジタルネイティブたちは、楽しみながらデジタル機器を操っているのではない。むしろ、他者との関係の中で空気を読み、「テンションを共有」する努力を続けながら、サイバースペースへの強い不信感から来る不確実性を回避しようともがいているのだ。
単純な世代論では見えてこない、技術と社会の相互作用を丁寧に描き出した良書である。
(慶応義塾大学教授 土屋大洋)
[日本経済新聞朝刊2012年12月16日付]