ネットワーク・ヘゲモニー 土屋大洋著
覇権国の行方を科学的に予測
天気予報や地震予知などと同様に、将来の国際政治がどうなるかという予測は可能であろうか。例えば、A国とB国が戦争するか否かとか、ある国が民主化に成功するかという類の予測は日常会話でもみられる。
本書は、国家の行方や、国家間の関係がこの先どうなるのかという問いかけに対して、科学的な視点から一つの回答を提起しようとしたものである。著者は、「国際政治における覇権の行方を予測することは、国際政治学における最も重要な課題の一つである」との認識に基づき、現代の帝国たる米国の覇権体制について、近年、台頭しつつある中国との関係を視野に入れながら検討を行っている。
古今東西、国際政治においては、その時々で最も力を有する国家を覇権国家や帝国と呼んできた。現代では、米国が軍事的にも経済的にも他国に抜きん出た地位を築き上げ、覇権を握っている。実際のところ、米国は異質なものを受け入れる寛容さをもっており、それが世界へのネットワークにもなっているという。かつての帝国主義と異なり、今や帝国は、植民地支配を一方的に行うのではなく、双方向的なネットワークを構築する主体となっているのである。
国際関係論の専門家であると同時に、情報社会論の専門家でもある著者は、本書において、「覇権国がネットワーク(情報通信ネットワークおよび物流のネットワーク)を他国に比して優勢に使うことができるならば」「領土に根ざした帝国的覇権から、ネットワークを活用した新しい覇権体制へと移行する」というプログラムを描いている。
その試みは、本書を通読する限り、説得力をもっている。しかし、著者の描いたプログラムが将来的に当たるか否かは今後の現実を見続けるしかない。国際政治の旬の話題を大局的に捉えることで、読者が将来を考える際の手掛かりとなる一冊である。
(日本大学教授 岩崎正洋)
[日本経済新聞朝刊2011年4月17日付]