小さな体に「日本ラグビー再興」の大望 田中史朗の挑戦
「体が小さい人や、日本人の可能性を示したい」――。ラグビー日本代表SHの田中史朗(28)。2月から南半球最高峰リーグの「スーパーラグビー」でプレーする。日本人で初となる快挙だ。戦うのはニュージーランド(NZ)、オーストラリア、南アフリカという強豪3カ国のクラブ。今月中にNZに渡って最後の調整をする田中は、静かに闘志を燃やしている。
■体を張る、日本人まだ足りぬ
――スーパーラグビーの契約を勝ち取るため、昨春からNZでプレーした。日本との違いをどう感じた?
「NZは恐怖を感じないような選手が多い。試合中にどんなに激しく体を打って内出血しても、テーピングをしてすぐピッチに戻り、思い切り相手にぶつかる」
「プロ選手が少ないせいか、日本人はチームのために体を張るという部分がまだ足りない。ケガをしたくないという思いがどこかにあるのかもしれない」
――京都産業大学時代にもNZに留学した。
「当時は当たりの激しさに驚いて、『スーパーラグビーは日本人には届かない舞台なのかな』と感じてしまった。英語を話せなかったので、練習や試合以外の時間はホストファミリーの家に引きこもっていた」
「今回は英語がある程度分かったし、チームに溶け込むために、あほなことばかりやった。チームメートの後ろから肩をたたいた後、しゃがんで隠れたり」
■人気下げた自分がふがいない
――海外で戦いたいという思いが強くなったのは、2011年のワールドカップ(W杯)で日本が惨敗したことが大きい?
「日本が1勝でもできていたら、少しでもラグビーの人気が上がっていた。人気を下げてしまった自分がふがいないという気持ちが強い。自分じゃなくてもいい、誰かがスーパーラグビーに行って、インパクトのあることをしなければいけないと思っていた」
「今回、僕だけじゃなく、堀江翔太(パナソニックのチームメート)も同時に挑戦できることになったので、ちょっとでもラグビーの人気が上がってくれればいい」
「W杯でも日本人の甘さを感じた。目標の2勝のターゲットにしていたのはトンガとカナダ。それまで3年連続で勝っていたトンガに負けたのは、自分たちに心の弱さがあったから。カナダにも残り10分で8点差をつけていたのに、追いつかれた。もう少し我慢をすれば勝てた」
「大会後、一部の選手の間にJK(ジョン・カーワン元日本代表ヘッドコーチ)のせいにする雰囲気があったのも許せない。ラグビーは監督でなく、グラウンドでやってる選手が判断するものだから」
――自分で判断する力を養うという意味では、子どもへの指導法にも苦言がある。
■子どもの「やりたい」気持ち育てて
「子どもに『やりたい』という気持ちにさせるのではなく、無理やり『やらせる』ことが多いのが日本の指導の悪いところ。子どもがラグビーを嫌いになり、成長できなくなってしまう。指導者には、子どもの『やりたい』という気持ちを育てるように教えてほしい」
――少年チームの指導に行くなど、そのために率先して行動してもいる。
「(交流サイトの)フェイスブックやミクシィの僕のページにも、小学から大学生、子どもの親から相談のメールが来る。全部返事をするので、もっとどんどん送ってほしい」
■19年W杯、スタジアムを満員に
――2月中旬からいよいよスーパーラグビーが始まる。優勝候補の一角、NZの「ハイランダーズ」の一員として挑む。
「体の小さい選手でもできるということを見せて、子どもに夢を与えたい。僕がスーパーラグビーで活躍することで、日本とNZとのつながりも強くなる。その結びつきを19年のW杯日本大会に生かしたい」
「世界からファンが訪れて、スタジアムが満員になるように。日本と世界のラグビーを愛する人が触れあってほしい。『19年』を成功させないと、日本のラグビーは終わると思っている。そのためにもスーパーラグビーで頑張りたい」