大人はなぜ時間を短く感じる?
子どものころと比べ、大人になると時間が速く過ぎると感じます。様々な心理学の実験で、その理由が探られています。
Q 時間の進み方は一定のはずだよね。
A そう。人間がどう感じるかという心理学的な問題なんだ。昔からある有名な説明に「ジャネーの法則」というものがある。同じ1年でも10歳と60歳とでは人生での比率が10分の1と60分の1で全く違うね。高齢者はその分、同じ時間でも短く感じるという説明だ。
Q 理屈は分かるけど、実際はどうなの。
A そう単純な話ではないらしい。時間経過の感じ方には個人差があるし、子どもと老人とで6倍もの差があるということでもないからね。
時間の経過をどう感じるかは心理学で「時間評価」の問題といわれているんだ。ヒトには心的時計といえるものがあり、これが実際の時計よりも速く進めば、「まだ1時間しかたっていない」と感じるし、逆に心的時計が遅く進めば「もう1時間過ぎた」と感じる。
Q それは分かる。
A 千葉大学文学部の一川誠・准教授によると、心的時計の進み具合には、身体の代謝の状態が大きく影響しているそうだ。身体の状態が活発であれば心的時計は速く進み、不活発であれば進み方は遅くなる。高齢になると一般に代謝は低下する。そこで心的時計の進み方が鈍り、時間の経過を速く感じるという説明が可能だね。
Q 年を取ると心の時計のゼンマイも緩くなるというわけか。
A まあね。また、退屈な会議で何度も時計を見る場合、時間がなかなか過ぎないと思うように、時間経過に注意を向けるほど、同じ時間でも長く感じられるよね。これが子どもと大人の違いに関係している可能性もあるそうだ。子供には待ち遠しい行事が多いのに対して、大人になると慣れ親しんだ刺激の少ない出来事ばかりのため、時間経過に注意を向ける回数が減り、その分時間の進行が速く感じられるという。
さて、昔卒業した小学校を訪れたとき、校庭が小さく感じられたことはないかな。
Q うん、ある。
A 広い場所にいるほうが、狭い場所よりも時間が長く感じられるとの実験結果があるそうだ。同じ空間でも子どもは広く認識し、時間の経過をゆっくり感じさせる傾向を強めているとの見方もある。年を取るにつれ、時間経過を速く感じる理由には、これらのいくつかが複合的に関係していると考えられているそうだ。
(編集委員 吉川和輝)